第7章 帰国 第1話
松山は、ちょうど一年前に、Risaと一緒に降り立ったオークランド空港から、ビザ更新のために成田に向かうことになった。
ニュージーランドでの一年間の生活で、体格も一回り大きくなった。また、経験も重ねることで同じく一回り大きくなったと自負できるまでに成長していた。
飛行機は、約11時間で成田に到着する。途中で赤道を通過することから、赤道の通過証明を貰うことができるとニコルから聞いていたので、機内でちょうど赤道を通過するとのアナウンスがあった際に、そのことを思い出してCAに通過証明を貰えるのかと尋ねた。
すると、少々困ったような顔をされて、
「それは、お子様向けに限られています」
と言われてしまった。
ニコルに騙されたことに気づいたが、きっと今頃ニコルは笑っているだろうと、松山も苦笑いするしかなかった。
赤道通過後に、機内アナウンスが機長からあった。
「当機は、赤道を通過しましたが、コックピットの窓に問題が生じたためオークランドへ引き返します」というものだった。
すでに半分は飛行しているだけに、もっと近くの飛行場へ着陸すれば良いだろうとも思ったが、引き返しが決定しているとのことで、日本への到着は大幅に遅れることになる。
まぁ、騒いでも仕方がないので、任せるしかないという現実を簡単に受け入れられるようになったのは、ニュージーランドでの生活のおかげかも知れない。
オークランド空港に戻るまでさらに4時間以上の飛行時間があったが、着陸間近に機体を軽くするために燃料を投機するというアナウンス後、主翼の先端から燃料が投機される様子は、少々不安になるものだった。
その後、無事にオークランド空港に着陸したが、機体修理に2時間程度必要とのことで、空港内で待機することとなった。
仕方がないので、まずは日本へ電話をして、到着が遅れる旨を伝えた。さらに、ジムのところへ電話をして、「ただいま」とあいさつしたら、びっくりしていたので、これはニコルにも使えると思い、再度ニコルへも電話した。
「ニコル、ただいま」
「マツ、もう日本に着いたのか」
「いや、オークランドにいるよ」
「マジかよ。機内からの電話じゃないのか」
「ほら、空港のアナウンスも聞こえるでしょう。今、オークランドに帰ってきたところだよ」
ニコルも、ジム同様に驚いていたが、赤道の通過証明の件で、松山を騙していた仕返しだろうと思って、なかなかオークランドにいることを信じないのだ。
「機体故障で、途中から引き返したの」
と説明しても、ニコルは信じない。
「機内からの電話だろう」
と何度も繰り返すので、松山は近くにた航空会社の地上スタッフに頼んで電話に出て貰った。
しかし、ニコルはそれでも信じようとはしなかったので、
「じゃ、携帯電話ではなくて公衆電話からかけ直す」
といことで、ようやく松山の話を信じたのだ。
状況を改めて説明すると、
「無事でよかった」
という安堵の言葉がようやくニコルから発せられたところで、
「赤道の通過証明を貰ったよ」
とニコルにウソをついた。
「本当か」
と聞くものだから、
「あぁ、でも赤道をまた通過して戻ったので、返却したよ」
と返事することで、ニコルも松山に騙されたことに気づいた。
その後、予定どおり2時間遅れで、飛行機は再出発したが、当初の到着時間よりも12時間以上遅れたため、成田空港の到着時間は深夜に近い時間となっていた。
そのため、実家にたどり着いた時には、すでに日付が変わっていたが、両親ともに起きて松山の帰りを待っていてくれた。
「ただいま」
「お帰り。遅いから、お風呂入って寝なさい。話は、明日しましょう」
「うん、でも明日じゃなくて、もう今日だね」
一年ぶりの我が家での会話は、僅かであったが、久しぶりに日本の風呂の湯舟につかり、旅の疲れを癒し、布団へもぐりこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます