第5章 ヘリコプターハンティング 第2話

 その後、時間に余裕があれば、松山にも射手を経験させるということだったので、松山は興奮した。


 早々に食事を終えたジョージは、車から今日使う銃を降ろしてきた。


 全身が黒く、強化プラスチックを使ったその銃を、松山は日本国内で一度だけ射撃場で見たことがあった。アメリカアーマライト社製のAR-15。


 日本では、.308口径のものだったが、外観が軍用銃ということで、現在では新たな許可がおりないという話を聞いたことのあるものだった。埼玉の狩猟者が所持していたAR-15も更新はできるとのことだったが、新たに他者に譲渡することはできないということで記憶に残っていた銃である。


 ジョージのAR-15は、.223(5.56mm)の小口径であった。日本では、銃刀法により弾倉には5発までしか装填できないが、ニュージーランドでは30発の箱型弾倉でも使用できるとのことであり、まさに軍用銃そのままという印象が残った。

 

 アメリカで銃乱射事件が発生した際には、日本でもニュースとして報道される。

その際に「殺傷力の高い銃が使用された」というように報道されることが多いが、銃を所持している松山には、「殺傷力の高い銃って何」という疑問があったので、ジョージにニュージーランドでもAR-15のような銃は、殺傷力の高い銃というのかと尋ねてみた。


「ライフルなら殺傷力に高い低いもないだろう。みんな撃たれれば、それなりのダメージを受けるし、.22口径のピストルならまだしも、どれでも殺傷力があるのだから、殺傷力に高いも低いもないだろう」


 というのが、答えであり、松山の思いと同じであった。

 弾頭の種類によっては、殺傷力に差が生じることはあるかも知れない。

 フルメタルジャケットなら、獲物に命中しても弾頭形状は変化しないので、マッシュルーム効果はなく、弾丸はそのまま獲物の身体を突き抜ける。一方、ソフトポイントやランドノーズ、ホローポイントのように先端がマッシュルーム状に変形して運動エネルギーを一気に獲物の身体にダメージとして伝える弾頭であれば、フルメタルよりも殺傷力が高いとはいえるかも知れない。


 連射機能が高いという説明なら理解できるが、銃を知っているだけに、さすがに殺傷力の高低で銃を表現するのには無理を感じるのだ。


 そんな雑談をしながら、着々と準備を進めていたが、ジョージからは松山にビデオカメラが渡されただけで、その取扱いや何を撮影するのかなどの具体的な指示はなく、


「マツ、今日はカメラマンだ」

という一言があっただけだった。


 後席に座ると、座席にはウエスト部分だけを固定するシートベルトがあるだけで、少々不安になる状況だった。


 ともかく、物を落とさないようにしないとならないのはわかる。一番落としてはならないのは自分自身だが、シートベルト一本はさすがに不安がよぎる。期待半分、やるしかないという諦め半分というのが、飛び立つまでの心境だったろう。


 飛行中は、エンジン音のため機内で普通に会話することはできない。そのため、ヘッドセットを装着し、プラグを天井のジャックに差し込むことで対応する。


 マイクとスピーカーの確認を終えると早速作業開始となるが、飛行中パイロットは無線機のPTTを押すために操縦桿から手を放す訳にはいかないので、マイクのスイッチはハンズフリーになっており、松山ははじめて使うことになったので、少々戸惑いがあったが、いざ飛び立ってみると、エキサイティングの一言だった。


 寒さは半端ではなかった。標高の高い山中で、しかも高速で飛行するのだから、体感温度は一気に下がる。


 ガタガタと震えが襲ってくるのだが、それ以上の興奮があった。事前に厚着をしてくるようにジョージからの指示があったので、準備はしていたが、ビデオカメラを操作するには、手袋を外さなければならず、指先の冷たさはさすがに辛かった。

 

 一気に高度をあげたかた思うと、沢筋に入り低空飛行へと移って行く。


 その時のマイナスGは、遊園地で乗ったジェットコースターの比ではなく、強烈だった。朝食が、喉の奥から逆流しかねないほどのものだったが、これも興奮の方が上回った。


 日本では、150m以下の低空飛行はできないが、ここでは50m以下まで下がっている。


 シカを発見すると、スミスはジョージが撃ちやすいように機体を横に向けて滑らせるように扱いながらシカを追跡していく。


 射程内に入るとジョージがAR-15で撃つことになるが、その時には高度も10m程度まで下がっていることになる。

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