第4章 犬 第1話

 ニュージーランドでの、メーンとなる研修テーマは、犬の育成だ。

 

 ジムが飼育している、ミジー、モーリー、ベラの他にも、スタッフの人数と同じだけ犬がいて、各スタッフが自宅で飼育していた。


 トムの犬は、ベス。ジョージのところは、サム。ニコルの犬は、ケン。ウィリアムのところは、ボス。オリバーの犬は、日本犬にも多い、モモということだった。


 さらに、野生化した豚の捕獲の際には、協力してくれる社外スタッフが飼育している専門の犬を使うとのことで、スタッフが飼育している犬は、シカやヤギなどの捕獲時に帯同させていた。

 

 松山は、最初に見た時に、毛色や体形などの差が大きいことから雑種かと思っていたが、すべてがニュージーランドハンタウェイという犬種であることを知って驚いた。


 近い犬種としては、ボーダーコリーだろうが、犬種として本当に完成しているのだろうかと思うほどにバラツキが大きいのである。スタッフは、特に犬種にこだわっておらず、実力重視という感じであり、それ以上に犬との距離感が日本人とは大きく異なっていることが、最初の印象だった。

 

 すでに、ワイルドライフマネージメント社で探索犬について学んでいたが、ニュージーランドでの犬の使い方は、最初の現場で見て驚いたように、ここでも驚きの連続だった。

 

 家では、室内で飼育されており、松山がスタッフの家に遊びに行くと、どの犬もソファーで寝ている姿に出会うことが多かった。


 リードでの係留義務が条例で決められている日本とは大違いで、外に出しても勝手に遠くまで走り回るようなことはなく、ハンドラーであるスタッフの傍からは離れようとはしない。

 

 ちょうど、オリバーのところのモモが妊娠中で、近々出産することから、その子犬の育成の様子を最初から見て学ぼうと、一頭は松山用の犬として育てることになっていた。


 スタッフは、誰もが犬の育成ができるとのことであったが、ニコルと松山の接点を増やすことを考慮して、犬の育成に関する指導者はニコルとなった。


 モモのお相手が、ニコルのところのケンであったことや、ケンの後継犬としてニコルも一頭を育成するとのことだった。

 

 モモの子犬が産まれるまでは、ジムのところのミジー、モーリー、ベラを相手に訓練のイロハを手ほどきされた。といっても、完成している犬であり、指示さえしっかり出せれば、必ず言うことを聞いてくれるので、本当に子犬を自分でこのように育てられるのか不安とプレッシャーを松山は感じていた。

 

 松山が担当する犬も、犬種としてはニュージーランドハンタウェイである。


 ウィキペディア(Wikipedia)によれば、ニュージーランドハンタウェイは、1900年代ごろに作出されたと記載されている。牧羊犬として優れた犬種を作り出すため、ボーダー・コリー、ジャーマン・シェパード・ドッグなどの牧羊犬種や、安定した気質を取り入れるためのラブラドール・レトリーバーなどを掛け合わせて作られたとの記述があるように、ニュージーランドでは、用途にあわせて交配を行っており、形質的な完成よりも、実用性重視であることがうかがえる。


 その証拠として、ニュージーランドでは使役犬としてもペットとしても非常に人気のある犬種ではあるが、能力の質を保つためFCIへの公認申請を行っていない。


 日本でも実用犬、ペット、ドッグスポーツ用として飼育されているが、FCI及びジャパンケネルクラブに公認されていない犬種であるため、国内登録頭数順位等はカウントされていない。

 

 同様に、野生化したブタの捕獲に使役する犬も、数種類のテリア系で交配を行っており、純血種にこだわることなく、実用的な犬の姿を求めていることからも、猟犬として必要な資質を最優先としていることは、これまでの松山の経験にはないことだった。


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