第4章 犬 第2話

 話は少し飛ぶが、語学学校での英語学習にも慣れた頃、オリバーの家で子犬が産まれたとの連絡があり、その後は、学校帰りに母犬の行う躾を学ぶために、松山はオリバーの家に毎日通うことをニコルから指示された 。


 さすがに生まれた直後は、母犬が神経質になっていることもあり、生まれて30日頃から約2週間、松山はオリバーの家に通って、母犬と子犬の様子を観察するように努めた。


 3匹生まれた子犬は、オス2頭、メス1頭であった。出産30日後には、すでに個性が現れており、毛色で見分けるのと同じくらい、簡単に個体識別ができる状況であった。


 一回り体つきが大きいのがオスで、あと2頭はほぼ同じ体格だった。


 オリバーからは、子犬がいたずらをした際の母犬の行動をよく見るように指示があった。


 母犬は、子犬のいたずらが少々過ぎると、鋭く鳴くというか威嚇するような声と、噛みつくとまではいかないが、歯を当てて脅かすようなしぐさで諫める。


 それでも、懲りないと、歯をむき出して唸ることで、いたずらをやめさせる。一方で、いたずらを辞めた子犬に対しては、全身を舐めて、たっぷりの愛情を示す姿が見受けられた。


 いずれにしても、注意は鋭く、短いのが特徴であり、厳しさには三段階くらいの強弱があるように感じられた。


 反省に対するご褒美は、たっぷりで、飴と鞭の使い分けは、見事というしかない状況であった。


 オリバーからは、2頭を会社用に残し、そのうちの1頭を松山が担当するとのことで、残りの1頭はジムの知り合いの一般ハンターのところへ行くことになっていると知らされた。


 そこで、3頭の見極めをすることになる訳で、その方法についてもいろいろとアドバイスを貰った。


 良く動くのは、身体の大きいオスだ。


 もう1頭のオスは、大人しく、どちらかといえばメスにも先を譲るような感じすらある。メスは自発的な行動や、周囲からの刺激に対する反応がほぼ大きなオスと同じであった。


「マツ、あなたならどの犬を選ぶ」


「動きだけで判断するなら、一番大きいオスかな」


「そう。その他に判断する材料はないの」


「え~と、呼びかけによく反応するのは、メス。小さいオスは、ちょっと考えてから反応してくる感じがする」


「そう、よく観察しているわね。ジムの知り合いのところへ行くのは、大きいオスになるでしょうね。会社に残すのは、たぶんメスと小さいオスね」


「へぇ、もう決まっているんですね」


「ええ。一般のハンターから見れば大きいオスは、魅力的よね。飼い主に選んでもらうことになるけれど、おそらく大きいオスを選ぶわ。でも一番期待できるのは、小さいオスね」


「どうしてですか」


「思慮深い」

その一言で、オリバーが何を基準に選んだのか、松山にも理解できた。


 社会性が高いとでも表現すれば良いのだろうか。小さいオスは、他の2頭をよく観察していて、時には虐められているような扱いも受けるが、母犬に怒られるようなことは決してしないのだ。


 それでいて、主張がない訳ではなく、しっかりとした自我が感じられるのだ。


 結局、メスを会社用とし、一番小さいオスを松山が担当することで決着したが、ニコルとオリバーから名前をつけろと言われて少々困った。

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