第3章 ライフル 第5話

 終了後、銃のクリーニングが習慣となっていた松山は、メンテンンス方法についてオリバーに質問した。銃砲店で、簡単なクリーニングキットとオイルを購入していたが、これまでの散弾銃と同じメンテナンス方法で良いのか確認したのだ。


「まずは、ボルトを抜いて、後方からブラシを通すの。ブラシには、この薬品をつけて」

と渡された薬品には、copper solventと書かれていた。


 散弾銃では、普通は潤滑油を使う。スラッグ弾では鉛汚れを落とすために、鉛落としでガシガシと銃身内を磨くが、ここで使うブラシはナイロン製であり、しかも塗布するのは除銅液なのだ。


 ライフルの弾頭は、表面を銅でコーティングされている。この弾頭が、高速でライフリングに食い込みながら銃身内を移動するため、銃身内には銅が付着するのだ。この銅を除去するために、またライフリングを保護するために、金属ブラシではなくナイロン製のブラシで薬品を塗布するとのことだった。


 洗い矢の通し方も散弾銃とは異なり、ボルト側から、銃口方向に洗い矢を通すと、そこで先端のブラシを外し、改めてボルト側からブラシを通すという一方通行で使うとのことだった。


 これを5回繰り返すのだが、面倒だなぁと思ったが、銃身に傷を残さない工夫とのことだった。


 その後、洗い矢の先端に尖ったパーツを取り付けると、口径と合致しているフェルトを固めたチップを汚れが無くなるまでボルト側から通した。


 最後に、フェルトにMILITEC-1という薬品を付けて、同じようにボルト側から1回通した。あとは、ボルトや銃身の外側など、手の触れた場所を、丁寧にオイルを塗布したウェスで拭いて終了となった。


 copper solventもMILITEC-1も、これまでに使ったことが無かった。散弾銃の平滑銃身とは異なり、ライフル銃身の手入れ方法は、松山にとって新しい経験であった。

 

 copper solventは、日本の銃カタログのライフル銃の手入れ方法で使っていることを知っていたが、MILITEC-1という仕上げに使った粘性のあるオイルは、始めて見るものだった。


 MILITEC-1について、オリバーに質問すると、バイクオイルの添加剤で、金属表面の保護をする効果があるとのことだった。


 最近では、ルブロイドというメタルコンディショナーがMILITEC-1よりも性能が高いということで、オリバーが試験的に使い始めているとのことだった。

 

 射撃後のメンテナンスまで終えると、オリバーが事務所まで送ってくれた。事務所では、用事を済ませたジムがすでに帰宅していた。


「オリバー、マツはどうだい」


「Excellent!とても、上手いわ。それに、道具を丁寧に扱うのには、感心したわ」


「へぇ、最大の誉め言葉だね」


「そうね。うちのスタッフよりも上手いかも。メンテナンスも完璧だし、直ぐに現場でも大丈夫よ」


「マツ、凄いじゃないか。オリバーが、こんなに誉めたスタッフはいないぞ」

 そう言われて悪い気はしない。


 盛んに、オリバーはメンテナンスのことを誉めてくれたが、専門学校でも、作業終了後は、まずは銃のメンテナンスをすることを教えられていただけなので、それがこれほど褒められるとは、思わなかったのであった。

 

 まぁ、聞いてみれば、他のスタッフがメンテナンスを怠ることから、銃器のメンテナンスを任されているオリバーに、やれ故障したとか、引き金の調子がおかしいとか、作業が終わるたびに言われるかららしいことが分かった。


「学校で、作業後は体のメンテナスよりも先に銃のメンテナスをするように教えられました。父親は大工で、大工道具のメンテナンス次第で仕上がりが違うことを小さいころから教えられていたので、今日のメンテナンスも当たり前と思っていたんですが」

 

 そう言うと、ジムもオリバーも納得してくれたようだった。さらに、ジムからは、


「お父さんが大工なら、マツも大工仕事できるのか」


と聞かれたので、小さいころから手伝いはしていたから見様見真似ではあるが、素人よりは上手いと思うと答えたら、事務所の裏口に連れていかれて、勝手口の建付けの修理を依頼されたのは、おまけのような出来事だった。


 後日、現場から戻ったスタッフたちに、


「マツが、勝手口をご機嫌に直してくれたぜ」


と広報してくれたおかげで、その後はウィリアムの助手というかパートナーとして、事務所やキャンプ地での工作を手伝うようになった。


 父親のお陰というか、門前の小僧習わぬ経を読むという言葉どおり、父親の仕事を子供の頃から見て育ったことが南半球の地で役立ったのだ。

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