第3章 ライフル 第2話
彼女自身、自分にライフル射撃のセンスがあるとは思っておらず、銃もジムの会社に入るまで撃ったことはなかったとのことだった。
ジムにセンスを認められてからは、週末の射撃クラブの大会に出場させられ、ここでも抜群のスコアで優勝すると、地区の代表としてより大きな大会へ立て続けに出場するようになり、この周辺では誰もが知る名シューターとなっていた。
「じゃ、マツは、ライフル銃を撃つのははじめて」
と聞かれたので、松山は正直に、
「はじめてです。散弾銃も所持して3年ちょっとで、撃ったのは主にスキート射撃で、これまでに一万発くらいは撃っています」
と答えた。
「一万発!すごいわね。で、スラッグ弾は撃ったの」
「はい。撃ちました。練習では、さほど撃っていませんが、シカの捕獲ではスラッグ弾を使っていました」
「そう。じゃ、ライフル銃を撃っても問題ないでしょう。でも、散弾銃と同じように引き金を引いちゃ駄目よ」
松山は、山里らからライフル銃の撃ち方は、散弾銃とは異なると聞いていたので、同じことを言っていることは、素直に理解できた。
そこからは、平易でゆっくりとした英語を使って、オリバーがライフル射撃のひとつひとつを丁寧に教えてくれた。
必要と思うことは、メモをとるようにとも指示されたが、
「ここは、大事よ」
という言葉で、メモを促すようにしてくれたのは、有難かった。
まず、オリバーは、松山のライフル銃を値踏みするように、隅々まで観察しはじめた。SAKO75は、現行モデルの一つ旧型となるモデルであったが、新銃でもあり、フルーテッド加工 されている銃身のフォルムは、カッコ良いものだった。
フルーテッド加工は、銃身肉厚を増しながら銃身に沿って溝を作るように肉抜き処理を施すことで、増加した銃身重量 を上手く相殺し、さらに熱放射性が高いだけでなく熱に強くキズがつきにくい処理で、最近のライフル銃身の流行でもある。
口径は、.223。他のスタッフと同じ小口径銃である。さらに先端部には、消音器(サプレッサー) が装着できるようになっている。
スコープは、ライフル銃を購入した銃砲店で、リューポルドというメーカー の4から16倍のズーム機能が付いたものを装着して貰っていた。
オリバーは、A4サイズのコピー用紙に格子状の線が引かれた標的紙を取り出すと、
「この一マスが、1インチの正方形で描かれているの。この標的紙を使って、今日はゼロインをするわ」
と松山に簡単に説明すると、銃身と銃床(ストック) との隙間にその標的を差し込み銃口から機関部方向へとスライドさせていった。
「ほら、マツ。ライフルの銃身て、ストックからは離れているのよ」
と教えてくれた。
「なぜ離れていると思う」
と聞かれたので、
「銃身は、振動するので、ストックとは離してあると聞きました」
と答えた。
「うん。そうね。ライフル銃を撃ったことがないのによく知っているわね」
「はい。日本の専門学校でお世話になった先生から、ライフルについても、少し教わりました」
「そうなの。じゃ、ある程度は知っているという前提で説明するので、分からなかったら質問してね」
「はい。わかりました」
そこからは、約一時間にわたり、ライフル銃の構造や引き金の引き方、スコープの使い方などを丁寧にオリバーは、松山に伝えた。
松山が、日本で聞いたことのなかった話題は、ほとんどなかったが、彼の中では「どれも聞いたことはあったけれど、理解していなかった」というのが率直な感想だった。
例えば、ツイストの話題では、
「この銃身は、右回りで12ツイストね」
とオリバーが説明してくれる訳だが、確かにこの話題もワイルドライフマネージメント社で聞いたことがあるが、12ツイストが何を意味しているのか分かっていなかった。
「12ツイストってなんですか」
これが、松山の最初の質問だった。
「12ツイストは、12インチ進むとライフリングが1回転するということよ。13ツイストなら、13インチで1回転。10.5ツイストなら10.5インチで1回転するということ」
「なるほど。では12ツイストよりも10.5ツイストの方が、弾頭の回転数が増えることになるのですか」
「そう。重い弾頭で遠くの標的を撃つ時などは、きつめのツイストが望ましいわね」
「12ツイストは、一般的なのでしょうか」
「そうね。右巻きで12ツイストっていうのが一般的と考えて良いと思うわ。24インチの銃身なら、銃口から弾が出るまでに2回転することになるわね」
「もっとたくさん回転しているのかと思っていました」
「ライフル弾は、回転しているから遠くまで安定して飛ぶので、命中精度が高くなるのは知っているわね」
「はい」
「じゃ、実際に空中を飛んでいる時には、何回転くらいしていると思う」
「銃身内で2回転だけど、銃口から出る時にはかなりの速度が出るから、2,000回転くらいしているのかなぁ」
「毎秒」
「そうですね。毎秒2,000回転」
「惜しいけど、残念。毎秒3,600回転くらい。毎分なら220,000回転」
「凄いですね。バイクのエンジンの回転数と比べても、すごい回転数ですね」
「そうね。どのくらい回転しているのかって、どうやって調べたのかは私も知らないから聞かないでね」
と、最後はオリバーの知識の限界で、この話題は終了した。
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