第3章 ライフル 第3話
一通りの説明が終わるといよいよゼロインをするために初のライフル射撃となった。これまでにも、ライフル射撃を間近で見てはいたが、実際に撃つとどのくらいの反動があるのかなど、不安に思うことも多く、緊張が増してきた。
標的紙の設置では、トンネルを抜けて、100mの標的位置まで行くと、横方向に塹壕のような通路があり、そこで標的板に標的紙を張り付けて、押し上げることで、他の射手が射撃中であっても設置出来るように工夫されていた。
さすがに500m射座では、標的まで往復するだけで1kmを移動することになるので、ゴルフ場で使うのと同じカートが用意されていた。
300mの射座では、自転車とセグウェイが置かれていて、おまけにスケートボードがあった。
標的紙の張り方をオリバーに教わりながら、射撃場の様子を観察しつつ、いよいよゼロイン作業が始まった。
まずは、ライフル銃を安定したレスト上に置くことから始まったゼロインは、松山には何かの儀式が開始されたように思えていた。
「マツ、まずはボルトを外して真後ろから銃身内を覗いて見て、標的の中心にあわせて」
オリバーの説明どおりに、松山はライフルのボルトを抜くと、後方から銃身内を覗き見た。ライフリングの螺旋の先には明るい空間があり、そこに標的の中心がくるようにレストを動かした。
「今度は、ボルトを付けずに、椅子に座ってライフルを動かさないように構えて、スコープを覗いて見て」
指示どおりにスコープをのぞき込むと、スコープの中に見える十文字の線(レチクル) が標的紙上に見えた。
「どうかな。レチクルの中心と標的紙は、重なって見えている」
「はい。十字の中心は、左上に位置していますが、標的紙上にあります」
「じゃ、撃ってみようか」
オリバーは、そう言うとイヤーマフを装着するように指示し、装弾を松山の横に置いた。
松山は、イヤーマフを付けると、ボルトを装着して、装弾を薬室へと装填した。
イヤーマフを付ける前から、初のライフル射撃に緊張して動悸がしていたが、イヤーマフを付けたところから、自分自身の心臓の鼓動がより大きく聞こえるように感じて、さらに緊張が高まっていった。
その後ろ姿を見て、オリバーが、
「マツ、リラックス、リラックス」
と声を掛けてくる。
薬室に装填された、.223口径の装弾は、松山の指が引き金を絞ることで、前方の標的紙に向かって飛び出す準備ができている。
あとは、松山が決断するだけだが、スコープを覗くことに慣れていないために、なかなか照準を決めることができなかった。
「マツ、一度弾を抜いて」
オリバーの指示どおりに、松山は装弾を脱包した。
「マツ、スコープの使い方に問題がありそうね。まずは、そこから直していきましょう」
そう言うと、オリバーは実際にライフル銃を構えながら、スコープの使い方を丁寧に説明してくれた。松山ができていなかったのは、スコープの接眼レンズからの距離(アイリリーフ)の取り方で、双眼鏡や顕微鏡を覗くように、顔を近づけ過ぎていたところだった。
「マツのように、顔を接眼レンズに近づけ過ぎると、反動で銃が跳ね上がったときに、スコープの縁で額を切ってしまうの。それに、ある程度離しておかないと、スコープ内の視野に影ができるでしょう。そうすると、レチクルとは違うところに着弾することになるので、綺麗な円で見える位置を探して」
その説明を理解するまでには、少々時間が必要であったが、実際に顔を銃床につけて前後させることで、言葉よりは実感として理解することができた。
オリバーは松山の眼と接眼レンズとの距離を横から確認した。
その後、
「マツ、今度は目を閉じてスコープのことは考えずに銃を構えてみて」
と指示した。
言われるままに、松山が銃を構えると
「うん、わかったわ。少しスコープを前に出すわね。ストックの高さは、このままで大丈夫そうね」
というと、レンチを取り出して、松山のスコープを約5mmほど前にずらした。
「マツ、もう一度構えて」
松山が再度、銃を構えると、それまで顔の位置を前後にずらしてスコープを確認していたが、今回は一発でスコープの中が満月のようにクリアに見えた。
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