第9章 あとがき
狩猟者の高齢化と減少は、ここ数年の間に急速に進む。そこで失われる文化を取り戻すことは、難しい。
一方で、狩猟者に求められていた役割が早々に消えることはない。誰かが担わなければならないのだ。
狩猟者の高齢化と減少に伴う弊害も、現れつつある。ひとつは、銃砲店の廃業だろう。
後継者をもたない銃砲店は多い。当代で廃業する銃砲店は、今後の銃砲所持者数を予想しても容易に想像できる。
銃規制が行き過ぎたと考える銃砲店は多いが、銃砲所持者を増やそう、残そうとする努力が足りなかった感は否めない。
さらに、射撃場も同じく経営が困難となっている。クレー射撃を例とすれば、国際ルールで競技を行う日本クレー射撃協会(JCTAS)に所属する銃砲所持者であれば、一人の射手が狩猟者100人分の装弾を年間で消費する。
狩猟者に目を向けるよりも、競技者に寄り添った経営を優先した方が、射撃場の経営は安定するだろう。狩猟者の高齢化と減少とともに衰退していく流れから脱出できるかどうかは、国際的な競技力を有する射手の育成を考えた方が合理的なのだ。
とはいえ、一人の競技者を失うことはリスク管理上からは得策とは言えない。そこで裾野を広げるために狩猟者への働きかけは重要となってくる。
文化としての狩猟伝承が困難になっていることは、ある面では有利に働く可能性を秘めている。これまでの狩猟者の多くは、「鉄砲撃ち」でありながら「鉄砲を撃ちたがらない」不思議な人が多いのだ。
このような矛盾した面を伝承する必要はない。射撃場が主体となれないまでも、狩猟者を育成することで、これまで以上に射撃練習の重要さを理解させることが可能なのだ。
国際大会への出場を目指す人、国体や全日本選手権を目指す人、一般狩猟者の大会での上位を目指す人、シカやイノシシが獲れれば良いという人など、目標には多様性があって良いが、いずれにしても射撃技量が高いことで、より楽しい、面白い、さらにより安全な狩猟や射撃が楽しめることに繋がる。
上手くなることから逃げる必要はないはずであり、野生鳥獣との戦いで勝ち続けるためには、それなりの練習が必要であり、その過程を経験することで、結果を残せた際の喜びもひとしおというものだろう。
このような銃市場の在り様を考慮すれば、この先十年から十五年後くらいまでの野生鳥獣対策の市場も容易に想像できる。まだまだ、捕獲に関わる人材が不足している。
従来からの狩猟者に期待することを否定しても始まらない。しかしながら、多くの狩猟者の確保を望むことは難しいだろう。量から質への発想も必要であり、そのためには育成された専門的な捕獲従事者が重要なのである。
練習は、嘘をつかない。
スキート射撃では、「肩付け1万回」という言葉がある。銃を一瞬のうちに、肩と頬に密着させ、狙う姿勢を作る動作を「拳銃動作(きょじゅうどうさ)と呼ぶが、この動作を1万回やってようやく姿勢、言い換えれば基礎が出来上がるという意味である。
わな猟を見ても同じであり、延べ1万基のわなの設置と捕獲等を経験すると、ようやく「わなとは何か」がわかってくるように思える。
場所や時期の選択、合理的な設置方法、止め刺し、錯誤捕獲、放獣、サンプリングなどなど、必要とされるスキルを身に着けて、一人前と思われるまでには、それなりの経験が必要なのである。
一方で、教わらずとも上手にできてしまう人もいる。いわゆるセンスがあるという人だが、このような人であってもさらに練習をすることで、確実にその技量は高まる。
ウサギとカメの童話ではないけれど、確実に一歩一歩を積み重ねた先に到達できる境地にこそ醍醐味がある。
捕獲道具、対象鳥獣、猟法、猟犬など、数式ではないけれど、変数が増えれば増えるほどに回答である捕獲は難しくなっていく。
捕獲戦術は単純である方が、成功率が高くなるのは、当然のことであり、最小限の努力量で最大の効果を発揮することが望ましい。
しかし、より高度な捕獲ができたなら、そこで感じる達成感や醍醐味は、単純な戦術の繰り返しとは異なり、忘れることなどできるはずもない体験となる。
太古の昔から、狩猟の失敗や成功を振り返り、共有することで、人類の進化と言語能力が発達してきたことは紛れもない事実である。
ニュージーランドの狩猟などは、日本の狩猟文化を今後も継承していくうえでの、ひとつのモデルなのかも知れない。
新たな狩猟者像 プロハンター ~ニュージーランド編~ wsat @wsat
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