第8章 それぞれの夢 第3話

 怪我をした瀬名は、回復して後輩の指導に頑張っているが、怪我をしたことで実家からの戻ってこいという圧力はより一層高まった。


 婿養子を貰って、実家の和菓子屋を継ぐことを両親は強く希望している。年齢的なことも考えると、この先数年間の進路についての葛藤は大きいだろう。怪我をした際には、瀬名も弱気になっていたらしい。


 学校に迷惑をかけたことも、弱気となった理由の一つだった。一方で、この野生鳥獣対策の現場から逃げ出すようなことも嫌だった。


 自分の力で倒せるのは、僅かな数かもしれないが、学校で人材育成に関わることで、その数を大きく増やしていけるであろうことも、踏みとどまる理由であった。


 両親との折り合いをいずれは付けなければならないが、彼女の中では、その時はまだ先であると考えているようだった。

 

 松山は、順調にニュージーランドでの活動を続けていて、そこでの生活に満足している。


 これは、ニュージーランドが野生鳥獣の被害対策において先進国でもあることが影響しているだろう。


 規制よりも、対策を優先する国民性の違いが大きいかも知れない。牧場主は、シカやヤギに牧草を盗食されるのを防ぐために、自らがハンターとなったり、専門的なプロハンターを雇用したりして対策を講じている。


 日本のように被害対策を行政に求めるようなことはなく 、あくまでも個人の農場経営の中で考えていることが大きいだろう。マルの訓練も進み、松山のパートナーとして、ジムの会社の捕獲業務においても戦力となっている。専門学校との窓口としても、彼の存在は大きい。


 サーパスハンターを目指した松山、瀬名、後田、柴山の4人には、それぞれの転機が訪れつつあった。彼らの将来が、今後どのように変化していくかはわからない。


 しかしながら、現在の野生鳥獣被害対策の現場から離れることはないだろう。パイオニアとしての道筋は険しいが、だからこそ面白い。


 有名大学を卒業したからといって、評価されるような社会ではない。解決力と創造力こそが求められる実社会で、どこよりも早くその分野を開拓している経験を重ねたことは、完成された他業種の中では物足りなさを感じざるを得ない。


 それほど、野生鳥獣の被害対策の現場は、日々変化し、エキサイティングなのだ。

 

 サーパスハンターとして確かな技術を学び、その道で生計を立てていこうと決意して、各々の道へと進んだ4人であったが、社会に出てみると学生時代には見えなかった様々な壁にぶつかっていた。

 

 ワイルドライフマネージメント社の活動も、最初はいろいろな軋轢があったという話を山里や坂爪らから学んでいたが、実際にその壁にぶつかり、周囲との軋轢を感じる中で、挫折しそうな日々を経験しているのだ。

 

 彼らが進んだ世界は、まだまだ未開拓であり、今後もいろいろな障害に出合うことだろう。

 

 その日々の葛藤の先に、余人をもって替えがたい存在となれる時がある訳だが、若い彼等にはまだまだ見えない将来なのだろう。

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