第8章 それぞれの夢 第2話
瀬名にとっては当然ながら、松山にも、同級生であった後田、柴山にとっても、瀬名の事故はお互いの仕事において考えさせられるものがあった。
学生時代に山里らから教えられた「事故は確率事象であり、誰にでも起こる」という言葉を改めて我が事として考えるようになった。
後田は、株式会社丸山調査でワイルドライフマネージメント社のような認定鳥獣捕獲等事業者としての組織作りをまかされていた。
しかしながら、年上の従事者との人間関係には疲れ切っていた。社長も気遣ってくれてはいたが、やはり学んだノウハウを否定されたり、危険行為が無くならなかったりと安全上の問題が解決できない状況は、先々の不安しか見えなくなってしまっていた。
スタッフは、狩猟経験のある先輩職員と新たに中途採用した狩猟免許等の必要な資格を有している30から40歳台の合計5名であった。将来的には、これを10名体制として認定鳥獣捕獲等事業者としての認定を受けることを目指している。
しかしながら、専門学校で基礎を学んだ後田にとっては、当たり前であった銃器の取り扱いでは、初年度に中途採用されたほとんどの人が我流で危険な取り扱いをしていた。
専門学校でもワイルドライフマネージメント社でも、危険なことに対しては年齢に関係なく、注意できる環境があったが、ここでは難しかった。中途採用された職員から見れば、後田は最年少であり、彼等も未経験者ではないことから一筋縄ではいかない状況であった。
若さゆえの悩みでもあったが、その必要性を理解されない状態は、まさに八方塞がりだった。
このような状況は、翌年には社長を通じて黒澤や山里らへの相談もあって、社外講師という形でワイルドライフマネージメント社のスタッフが協力することで、閉塞感を打ち破ることで改善できた。
徐々にではあるが改善の兆しが見えたことで、後田の気持ちはなんとか繋がっているところまでは回復したが、まだまだ紆余曲折は避けられないと本人も覚悟をしていたようだ。
柴山は、田中の影響もあって警備会社へ就職したが、後田と同じように現場での危機管理について考えさせられることが多く、田中とも協力して改善に取り組んでいたが、警備会社の本業と野生鳥獣の捕獲とのマッチングは難しい状況であった。
警備会社での業務は、捕獲業務の管理が主体であり、自ら捕獲することはほとんどなかった。捕獲業務は、地元猟友会へ再委託することが多く、その管理が主な仕事だったのだ。
ここでも、安全管理は重要であったが、年上の狩猟者相手に、その必要性やノウハウを説明しても、日々の習慣となっている銃器の取り扱いなどを改めて貰うことはできずにいた。
組織が大きいだけに、新たな部門の設立は、旧部門との間にも軋轢を生じる。いずれの企業でも同じだろうが、新規プロジェクトへは期待とともに羨望や嫉妬が入り混じるのだ。
その軋轢に田中も柴山同様に疲弊しており、続けていくことへの不安が田中からも聞こえていた。
柴山自身、いずれは実家に戻り祖父の残した畑を守る仕事を立ち上げようかと思い始めていた。
元々は、そこが専門学校へ進学した原点でもあり、ワイルドライフマネージメント社と同じような認定鳥獣捕獲等事業者としての認定を受けて、捕獲現場で活躍することを考えていたが、少々その夢の実現に向かうタイミングは、本人が想像していたよりも早まりそうな感じがし始めていた。
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