第1章 渡航 第2話

 ニュージーランドのプロハンターの下で研修を継続することになった松山であったが、実現するまでには様々な手続きが必要であった。


 パスポートは、すでに所持していたから問題はない。


 とりあえずが、ビザの取得が最初のハードルとなった。留学とも違うが、先方の仕事を手伝いながら技術習得を目指すことになる。僅かだが現地で生活できる程度の給与も支給されることになっている。


 誰もが思い浮かぶのは、ワーキングホリデービザだろう。


 ニュージーランドのワーキングホリデービザ ※注1は、日本国籍保持者であり、年齢が18歳以上30歳以下で、渡航の目的が異文化交流の場合には適用される。


 滞在が認められる期間は入国日から12ヶ月間であるが、ワーキングホリデービザの滞在期間中に3ヶ月以上ニュージーランドの季節労働に従事した場合には、3ヶ月間の延長が可能というシステムとなっている。


「俺は、日本国籍保持者だから問題ない。年齢も23歳だから大丈夫。渡航の目的が異文化交流になるのかなぁ・・・。」


この目的が、どう解釈されるかが問題であるだろうことは、松山にも十分に理解できた。


さらに調べると、就労ビザが適用されるのかも知れない。


ニュージーランドの就労ビザ ※注1は、

①永住暫定就労ビザ(ワークトゥレジデンス)

②ビジネスリロケーション就労ビザ

③テンポラリーワーク

④新卒者用ジョブサーチビザ


の4種類に分かれている。


永住暫定就労ビザ(ワークトゥレジデンス)は、永住ビザへのステップとして発給される就労ビザになり、申請者はニュージーランドの要求職(LTSSL)に含まれている技術者や一部の文化人、芸術家、スポーツ選手に限られている。


既に現地企業から要求職での雇用保障があることや最低2年以上の雇用が約束されていることなどが条件となっている。


その後、実際にニュージーランドに渡航し、ワークトゥレジデンスで2年以上働くと、レジデンスフロムワークのカテゴリーにて永住ビザへの切り替えが可能となる。


ビジネスリロケーション就労ビザは、海外の企業がニュージーランドへ移転する際にキーパーソンとして派遣される人物を対象とした就労ビザである。


取得の諸条件としては、申請者はその企業においてキーパーソンであること、規定以上の英語力(IELTS試験にて平均5点)が求められるほか、なぜニュージーランドへ移転するのか、その方法、ニュージーランドにとっての利益などを証明していくことが求められる。


テンポラリーワークは申請者の状況により細かく分類されているが、基本としてあるのは、ニュージーランド企業から雇用保障を得ている技能職(LTSSLや ISSLに載っている要求職)の人物が申請する就労ビザである。


新卒者用ジョブサーチビザは、留学生が卒業後にニュージーランド国内で仕事を希望する場合、コース終了後であれば、このビザを申請することがでることになっている。


このビザは申請者がジョブオファーを持っているかいないかで異なっている。

さて、松山にはどのビザが該当するのだろうか。


このハードルを越えるためには、手っ取り早くニュージーランド大使館に問い合わせるに限る。

※注1:https://www.viewgrant.com/visa/countries/nz.html


 ニュージーランド大使館 ※注2は、東京都渋谷区神山町にある。東京メトロ千代田線代々木公園駅2番出口を出ると、代々木公園を左手に見ながら、井の頭通りを南下しNHK放送センターの手前で右手に折れる。


 約10分で大使館前に到着するが、遠目には白い三階建ての集合住宅のように見えた。正面にニュージーランド大使館の看板を見て、「あぁ、大使館なんだ」と思えるところだった。


 まぁ、結論から言えば、ワーキングホリデービザで問題はなく、「百聞は一見に如かず」であり、「聞くは易し」であった。


 すでに、卒業前にRisaとニュージーランドでアパート等は手配済みだったので、ここからは流れるように物事は進んでいった。

 

 3月の卒業式を終えた後、早々に松山はRisaと再度一緒にニュージーランドへと向かった。

 

 松山の英語力は、まだまだ怪しくプロハンターとして探索犬の訓練や現場に出るには無理があり、まずは語学力を養わなければならなかった。


 日本に残って学習するということも考えたが、甘えることができない現地での学習を優先させたのだ。

 

 成田空港を夕方出発するニュージーランド航空の直行便は、12時間後にオークランド空港に無事に到着した。3月、早春の日本とは逆にニュージーランドは初秋である。


 まだまだ紅葉が始まるような気温ではないが、日々暖かくなりつつあった日本とはちょっと違う空気感が飛行機を降りた時から感じていた。

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