第2章 ニュージーランドハンティング 第4話

 食事は、ウィリアムが担当とのことであったが、捕獲の合間に作るキャンプ料理とは思えないほどのバリエーションがあり、期間中同じメニューは一度もなかった。


 ウィリアムは、オーストラリア人であり、ニュージーランドでは料理店でコックをしていた前歴をもっていた。


 料理が上手いのも当然であり、キャンプ地での食事は余程のことが無い限り彼が作った。というのも、彼以外が作ると全てがファーストフードのようなものとなるためだった。


 コック時代に、ジビエ料理の材料としてシカ肉を手に入れるため、ハンターのところへ通っているときに、ジムと知り合い、その仕事に同行しているうちに、料理よりも捕獲することの方が面白くなってしまって、そのままジムの会社で働くようになったとのことだった。

 

 松山の教育係となったトムは、ジムのお父さんの時代から一緒に会社を経営してきたスタッフであり、日本で言うところの専務取締役という肩書をもっていた。


 根っからの狩猟者であり、犬の訓練も彼が実施していることから、以後一年間はトムを師匠として弟子入りした気持ちで接するように心掛けるようにしていた。

 

 ジョージは、ニュージーランド空軍に在籍していたヘリコプターのパイロットであり、ヘリコプターによる捕獲を行う場合には、彼が窓口となって元同僚であったパイロットが経営するヘリコプター会社から機体をレンタルしたりするとのことだった。


 ニコルは、トムが育てたスタッフであり、松山にとっては兄弟子とも言える存在であった。年齢も30歳台前半で、松山とは一番近く、以後悪い遊びにも誘ってくれる、まさに兄貴分となった。


 女性スタッフのオリバーは、渉外担当のような仕事をしていたが、ライフルを撃たせると男性スタッフよりも上手いとのことで、以後、松山はライフル射撃についての指導を彼女から受けることになった。


 最初のシカ捕獲業務では、GPSを携帯しての忍び猟であったが、犬を連れて動くというところが日本とは違っていた。日本でもイノシシ探索犬を使っていたが、ここではシカ探索犬を使っていたのだ。


 シカ猟に適する探索犬のイメージができないという話を、ワイルドライフマネージメント社で聞いていたこともあり、松山にとっては興味のあるものだったが、実際に現場に入ってみると、日本とは事情が異なることが直ぐにわかった。

 

 探索犬は、よく訓練されており、ハンドラーのわずかな指示に従い、ハンドラーの後ろを歩いたり、忍び足でシカに接近したりと、まさに手足のように動くことは驚きだった。


 また、それ以上に驚いたのは、犬を見たシカが逃げずに、「何?」というような表情で立ち止まっていることだった。


 日本なら、犬の気配を感じただけでもすぐに逃走し始めるが、ニュージーランドでは犬に初めて出合った、人間にも初めて出合ったというシカがいるということだ。


 日本のように山中に縦横無尽に林道が走っているような場所はなく、今回のキャンプ地のように道なき道をATVやヘリコプターを使って出入りするような場所では、人間や犬を初めて見るという警戒心の全くないシカが存在しているということなのだ。


 日本であれば、車両を使って機動力を高めることができるが、林道が発達していないニュージーランドでは、古くから、馬、トラクターなどを使った狩猟が行われていた。

 

 最近ではATVやヘリコプターを使った方法も行われるようになった。このような機動力の変遷は、将来の日本の狩猟を見据えた場合、大いに参考になる。


 最近、日本でもスノーモービルを使った狩猟などが行われるようになっていることも、当然の進化と考えられる。


 しかしながら、ヘリコプターを使ったハンティングが日本で実施される可能性は、今のところかなり低い。


 これは、航空法の規制が大きいが、将来的には認定鳥獣捕獲等事業者のような捕獲を専門的に行う法人などに限って実施するような状況が生まれるかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る