第2章 ニュージーランドハンティング 第5話
スタッフが使用しているライフル銃は、すべてサプレッサー付の.223口径だった。
日本では、所持することもできないサプレッサーの消音効果については、松山もどれほどのものかと興味があった。
実際に、現場ではじめてサプレッサー付きのライフル銃の発射音を聞いた感想は、「あれ、それほど音は小さくないじゃん。映画のようなものじゃないな」
といった感じだった。
試しに、サプレッサーを外した時と装着した時の発射音の違いを知りたくて、外して撃って貰ったが、それほどの差はないなぁというのが実感だった。
外した時を100としたら、60~70くらいで、映画のような「パスッ!」というような一桁程度まで消音しているものではなかったのは、正直なところ意外だった。
トムに、「それほどの効果を感じなかったが、どうしてサプレッサーを装着するの」かを聞いてみた。
トムの答えは、「耳の保護のためさ、それから遠射した際、獲物に発射位置を特定させないこと」であった。
確かに、群れに対する遠射の際に、逃避先の方向を決めるのに右往左往する様子を見たことからに、発射位置を特定されていないという印象はあったが、逆に耳の保護に必要かどうかには、疑問が残った。
結局のところ、弾丸の飛翔音は消しようもないし、戦場でもない限り必要性があるのだろうかというのが、松山のサプレッサーに対する感想となった。
また、アカシカを仕留めるには、.223では威力が不足するのではと心配したが、これが当たり前だというような感じで使用しており、パワー不足を口にするスタッフは1人もいなかった。
実際、.223で200m以内のシカをバシバシと倒している状況を見て、日本では.30-06か.308が主流であり、エゾシカでは300WSMなどが使われていると聞いていただけに、正直驚いてしまった。
その点を、トムに聞いたところ、シカが絶命するに必要なエネルギー量と.223の弾頭が有するエネルギー量について、簡単なメモで説明してくれた。
「.223で十分。大きい口径で撃つと、狙いがズレることの方がマイナスとなる」
トムは、簡単な英語で、やさしく説明してくれた。
「さらに詳しいことが知りたければ、射撃のコーチであるオリバーに聞け」
と言われ、ここで初めて射撃を教えてくれるのがオリバーであると知ることにもなった。
最初の現場は、ともかく一から覚えることばかりで、あっという間に終了した感じだったが、これまで日本で経験してきたシカの捕獲とは異なり、一銃一狗で決められたルートを狩り進んでいくというスタイルであり、日本のシカには残念ながら通用しないのではないかなぁというのが正直な感想だった。
しかし、同行する犬の能力は、これまで松山が見てきたどの犬よりも高く、従順であり、ハンドラーと一体となってシカを追い詰めていく。
この犬を日本に持ち帰ることができれば、同じような方法で狩り進めることはできなくても、今までにない新たな捕獲戦術を見いだせるかも知れないと感じていた。
わずか一週間の体験であったが、そこで経験した一番の違いは、やはりスケール感であった。
日本では、林道と車両で機動力を高めることができることもあり、宿泊はホテルであったり、借り上げた住居であったりで、キャンプでの作業はなかなか考えにくいものだった。
一方、林道が発達していないニュージーランドでは、ベースキャンプを設置して、そこを拠点に作業を進めることで効率を高めており、そのベースキャンプの住環境を良くするための様々な工夫が行われていた。
この工夫が、日本とのスケール感の差を生んでいた。しかしながら、捕獲作業自体は日本と同じであり、極めてアナログな作業であることに変わりはなかった。
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