第6章 ニュージーランド四方山話 第4話
日々、新しい出合いに恵まれたニュージーランドの生活ではあったが、数多くの体験の中でも松山がニュージーランドで一番興味をもったのは、シカの生体捕獲方法だった。
ヘリコプターからネットランチャーを使ってシカを絡めとる方法は、さすがニュージーランドだと思った。
ショットガンの銃身を短く切った先端に4本に分かれたパイプが装着されており、その間にネットが畳こまれている。
発射薬は空包となるが、3m×3mに広がったネットがシカを絡めとる方法はダイナミックであり、日本では実現できそうもないと思える方法だった。
ともかく、日本の法規制は細かく、捕獲については規制が多い。日本の捕獲事情をジムたちに説明する際も、「どうして、そんなにも面倒なんだ」という反応が多くなる。
専門学校では、戦後の占領政策の中で作られた法律の多くが、捕獲現場を縛っていると教えられたことがある。
例えば、ヘリコプターハンティングでは、航空法の規制が大きく影響している。150m以下の低空飛行が認められていないことや火薬類の持ち込み規制、さらには航空機から物を落としてはならないということで弾丸を発射することもできない。
一方で、ニュージーランドでは、超低空で捕獲に活用している。日本では、ヘリコプターが墜落すると大きなニュースになる。150m以上の高度からの墜落では、衝撃も大きく、人的な被害も伴うことになる。
ニュージーランドでは、ヘリコプターの墜落事故は日本よりも多いだろう。しかし、その多くが超低空飛行時の樹木との接触によるものであったり、不整地への着陸でバランスを崩して転がったりするような墜落が多い。このため、人的な被害は逆に少ないのが特徴だ。
松山が見せてもらったヘリコプターの墜落を伴う捕獲ビデオでは、ヤギの捕獲作業中、超低空でローターが樹木に接触したために発生したものだった。
斜面を数回転がるように墜落していたが、パイロットも同乗者も無傷であった。ビデオを見せてくれたのは、自社でヘリコプターを所有している商業ハンター業者であったが、感覚的には自動車を一台廃車にした程度に面白おかしくビデオを観ながら解説してくれた。
このスケール感の違いを日本で埋めることは不可能だろうと思えたが、方法論だけでなく実際を知ることができたことは、大きな財産となった。
逆にわな捕獲での自動通報システムについて、ジムたちは大いに興味をもってくれたが、わな捕獲が残酷であるという考え方の違いは、松山にとっては意外な経験となった。
彼らは、苦痛を与えることを極力避ける。わなで捕獲するなら、銃で捕獲するというのが、基本的な考え方だ。
しかしながらオポッサムなどは、日本では禁止猟具となっているトラバサミが使われていたことも、松山にとっては意外に思えた。
同じ捕獲であっても、日本とニュージーランドでは、考え方が真逆であることも多く、文化の違いと思えた。
日本の狩猟しか知らなかった頃を思えば、ニュージーランドの狩猟を知ることで、視野は大きく広がった。アメリカやヨーロッパの狩猟も知ることができれば、さらにその視野は広がることだろう。
サプレッサー、ライフル銃、犬、ヘリコプター、ネットガン、プロハンターに商業ハンターなどなど、日本との違いは多い。
日本のように、捕獲方法を厳しく法律で縛るようなことは少ない。とはいえ、鳥獣保護管理法では第37・38条で危険猟法の禁止、銃猟の制限を規定している。
狩猟の適正化という視点からは、合理的であっても焦眉の急となっている許可捕獲では、この規制の撤廃も必要となることから、日本でも長年禁止されていた夜間銃猟が一定の条件のもとで実施できるまで法改正がんされている。
それでも、ニュージーランドの捕獲と比べると手足を縛られている感が否めない。その背景には、捕獲が鳥獣保護管理法だけでなく、銃刀法、火取法、航空法など、他の法律でも規制されている状況がある。
可能であれば、法律を一本化することで、合理的かつ効率的な捕獲へと日本の捕獲事情を変更していく必要があるとまで、松山には思えるようになってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます