第6章 ニュージーランド四方山話 第1話
松山がニュージーランドへ来てから、三か月が経過していた。
英会話にも慣れ、それまでは英語を日本語に置き換えてから理解し、回答を日本語で考えてから英語に置き換えて伝えていた頃を思えば、反応速度はグッと加速し、日本語で考えなくても日常会話なら不便さを感じない程度にはなっていた。
これも考えれば、Risaと知り合ったところからのスタートであり、時間的には半年以上の時が過ぎていた。
Risaは、松山がニュージーランドの地に落ち着くのを見届けて、日本へと戻って留学を継続している。
時差がないことが幸いし、夜にはSkypeで話すこともできたが、現場が忙しくなるとついつい連絡がつかないことが多くなる。
遠距離恋愛と言えるのかどうかもわからないが、この頃からRisaと連絡をとることが、お互いに減っていたことは間違いない。
将来どうしようという具体的な約束がある訳でもなく、次第に二人の距離が実際の距離に近づいていくことはやむを得なかったことだったろう。
シカ捕獲のため、約二週間の山小屋での生活を送ったあと、下山してアパートに戻ったところ、ポストにRisaからの絵ハガキが届いていた。
それによると、Risaは日本での留学を取りやめて、カナダへ移住することになったとのことだった。これは、ニュージーランドの家族がカナダへ移住することを決めたことが理由だった。
そのため、今後はカナダで勉強して、カナダで就職する予定であることや、ニュージーランドへは戻らないことが書かれていた。すでにハガキが到着する数日前には、カナダ入りしているようで、二週間前の夜のSkypeでは、話題にもなっていなかっただけに、松山にとっては青天の霹靂だった。
とはいえ、今度は時差もあって、簡単にSkypeで話す時間も作れない。
お互いに、メリットのある関係ではあったが、恋人として将来を過ごすことが、お互いに難しいことは理解できていたので、松山からも、ニュージーランドの絵ハガキをRisaに送ることで、二人の友人としての関係だけが残った。
失恋といえば失恋なのかも知れないが、その後は大きく落こむ暇もなく、次の仕事のための準備に追われる日々を過ごしたが、Risaの話題が出なくなったことに、ニコルがいち早く気づき、松山に
「マツ、Risaは元気かい」
と、からかうように声を掛けてきたことで、二人の距離が、日本―ニュージーランドではなく、ニュージーランド-カナダに変化したことと、関係も遠くなったことを説明することになった。
ニコルは、その話を聞くと我がことのようにショックを受けた様子で、それほど落ち込んでいない松山ではあったが、
「そうか、マツ失恋したのか」
とニコル自身が失恋したかのように悲しんだ。
「マツ、今日は飲みに行こう」
と言って、松山の肩をたたくと、大きな声でジムたちに
「みんな、マツが失恋したって。今晩は、マツを慰める会をやるぞ」
と言い放っていた。
年齢が近いこともらい、ニコルは松山に気を配っていてくれたこともあるだろうが、わずかな変化に気づいて、話しかけてくれたようで、そろそろホームシックにでもなろうという時期であっただけに、松山には「ありがたいけれど、そんなにも大騒ぎするような事じゃない」という感じだった。
捕獲作業が終わった時期でもあり、スタッフ全員が揃っている場所での公表だっただけに、面白半分にからかわれることを心配していたが、スタッフ皆が、松山の味方であり、カナダへ行ったRisaを擁護する発言はなかった。
彼女には、彼女の理由があってのことであるため、松山はそれほどまでには思っていなかったが、失恋のショックから松山を救い出すことを使命のように思ったニコルは、松山を中心にして全スタッフをバーへと誘った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます