第5章 ヘリコプターハンティング 第4話
ニュージーランドの商業ハンターは、生体捕獲したシカをシカ牧場内で養鹿し、角や肉、毛皮を商品として販売している。
角は漢方として東南アジアへ、肉はジビエ用としてほとんどがドイツへと輸出されている。毛皮は、革製品の素材としてヨーロッパへの輸出が多いと聞かされた。
国内でのシカ肉の利活用促進のため、シカ肉を扱う会社を税制上で優遇する制度もあるとのことだった。
日本でジビエ振興が言われるようになったのは、ここ最近の話であるが、ニュージーランドの事例は、まさに先進事例であろう。とはいえ、成獣で体重250kgにもなるアカシカを扱うニュージーランドの養鹿業から見ると、エゾシカも小さい訳で、ニホンジカは肉として利用できる量が少なく、いわゆる歩留まりが悪いために、 商用には適さないと考えられている。
ベルクマンの法則のとおり、低緯度地方ほど個体が小さくなるニホンジカでは、収支が黒字になることは考えにくい。人件費の高い日本では、なおさらだろう。
「もったいない」という言葉は、ケニア出身の環境保護活動家であるワンガリ・マータイによって広く世界に知られるようになった。消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、尊敬(リスペクト)の概念を一語で表せる言葉は、「もったいない」以外には存在せず、自然や物に対する敬意、愛などの意思(リスペクト)が込められているような言葉として世界共通語にするべく活動されていることから、日本国内でもその活動が紹介されている。
昭和の高度経済成長を経験し、公害問題に悩まされた経験をもつ団塊の世代は、過度に自然に手を加えることは良くないことだという価値観をもっている。
このため、農林業被害の原因となっているニホンジカやイノシシ、サルなどの捕獲に対してマイナスのイメージをもつ人も多い。
そのため、ただ殺され処理されていく流れは、許しがたく感じる。「もったいない」は、せめて食べることや活用することで、捕獲行為への免罪符と考えたいのだろう。
捕獲事業を推進したい自治体にとっても、「かわいそう」という批判をかわすには、利活用の推進という言葉は盾となる。その陰で被害軽減すら達成できず、作物を生産することを諦め、離農していく限界集落は年々増えている。その先にあるのは、荒廃した山林であり、多発する環境災害なのだ。
国土の植生を守り、生物の多様性を維持していくためには、何かを諦めねばならない。
すべては、そこに生きる人の価値観によって決まっていくが、今、何が大事なのかを見誤ると取り返しがつかないまでも、より大きな代償を支払うことになる。
松山は、日本で感じていたことをニュージーランドのシカ捕獲の実態を垣間見ることで、改めてその難しさを痛感していた。
3回目の給油時に、ジョージから短時間だが、射手を経験させて貰うことができた。
ヘリコプターハンティングを経験した日本人は、いったいどのくらいいるのだろうかと、松山は思ったが、日本からニュージーランドのハンティングツアーに参加し、ヘリコプターハンティングを経験する日本人は、それほど多くはいないだろうということは、容易に想像できた。知り合いでも、ワイルドライフマネージメント社の山里くらいしか知らない。
飛行時間は、わずか20分であったが、2回目の作業でシカを目撃していた場所へピンポイントで向かったため、シカの発見は早かった。
ジョージから渡されたAR-15で、走るシカを撃つわけだが、揺れる機体と走るシカとの間で、狙いやすい時間は、極めて少ない。それでも、3発目が命中すると一気に走る速度が落ち、続く4発目と5発目で完全に仕留めることができた。
回収は、後席に乗っていたジョージがやることになったが、初フライトで初のシカ捕獲の初物尽くしは、松山の中に新たな気持ちを生み出していた。
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