第5章 ヘリコプターハンティング 第3話
単体弾を使うため、走るシカに命中させるのは、やはり難しい。
仕留めるのに平均して8発程度を必要としていたので、仮に日本で航空法の制約を受けずに実施することができた場合でも、現行の銃刀法の規制にある弾倉5発では不足する。
スミスの操縦は、はじめてヘリコプターに乗った松山であったが、まったく不安を感じることなく、初めてのヘリコプターハンティングを目の当たりにして、ただただ興奮していた。
5・6頭のシカを倒したところで、今度は回収が始まる。
広い山中のどこでシカを倒したのかを記憶しているのは凄いと思ったが、最初の一頭を回収しているときに、ヘッドセットを通じて種明かしをしてくれた。
操縦席には、GPSを表示したタブレットが設置されており、撃った場所を記録しているのだ。
その軌跡と捕獲ポイントを見ながら、シカの回収をするとのことだった。スミスは、本当はGPSタブレットを置いてはいけないことになっているらしいことを説明の最後に付け加えていたが、そのことは、聞かなかったことにしようと松山は思った。
また、飛行中にシカを発見するのは、ジョージよりもスミスの方が早いのには驚かされた。右手で操縦かんを操作しながら、素早く左手でジョージにシカの方向を指し示すと、ジョージが射線を確保しやすいように、機体を横滑りさせながら、逃げ惑うシカを追跡していくのだ。
回収は、手早く行われた。不整地での作業となるために、操縦席の隣からジョージがシカの回収に降りる際でも着地はしない。ジョージが、銃を脱包して座席横のフォルダーに固定すると、地上1m程度でスミスが機体をホバリングさせる。ヘッドセットのプラグを抜き、シートベルトを外すと、ジョージが地面に飛び降りる。
河原のような比較的平坦な場所であれば問題無いが、傾斜地では、機体を斜面に近づけ過ぎれば、ローターが地面に接触してしまうことになる。そのため、時には、樹の上にジョージが下りることもあった。
ジョージは、シカを回収するとナイフを取り出して、すかさずシカの腹を開くと、一気に横隔膜から下の内臓すべてを引き出す。残滓処分などにうるさい日本と比較すると、大らかなのは、さすがニュージーランドならではだろうか。
最初の一頭は、ロープをひばり結びで首に巻き付けたが、二頭目からは後脚の腱と骨の間にナイフを刺しロープを通す穴をあけて、最初の一頭をアンカーにして次々にヘリコプターの下に吊るしていく。
フックにロープを繋ぐと、ジョージは素早く機体に戻り、次の回収場所へと移動していく。この一連の動きが、捕獲した個体すべてを回収するまで繰り返されていく。
一度に積載できる頭数は、最大で8頭程度であることをスミスが説明してくれたので、5・6頭を捕獲した段階で一度捕獲を中断して回収に向かう流れも理解できた。
回収した個体は、ヘリポートとなっている駐車場へと向かうと、駐車場の真ん中でホバリングしながらシカが地面に接地した段階で自動的にフックが開き、シカが降ろされる。
地上には、地域住民が数人集まっており、シカを駐車場の横へと移動させているようだ。
そのまま着陸することなく、二度目の捕獲へと向かうが、1回のサイクルが約30分で、3回捕獲を実施したところで、給油のため着陸した。
3回、約90分間の捕獲作業で、仕留めたシカは21頭だった。
エンジンを切ることなく、ドラム缶からの給油が行われたが、約20分の給油と休憩時間中に、ジョージはシカの回収を手伝ってくれていた地域住民と話していた。
「お手伝いありがとう。どれでも持って帰ってくれ、あと2回作業をするから、近所にも声を掛けてやって欲しい」
ということで、捕獲個体は地域住民に配っていることが分かった。
必要なサンプルは回収するが、あとは地域への貢献ということで、食用として配ることが推奨されているとのことだった。
住民も慣れているのか、すでに数名が集まっており、ピックアップトラックの荷台にシカを積み込んだり、中には赤ちゃんを背負った女性が、運搬用のトレーラーをATVでけん引してシカの横までやってきて、シカを選んでいたりする。
ジビエとしてのシカ肉の利用は、日本の比ではないことが、この状況からも良くわかる。
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