第4章 犬 第4話
ニコルが以前から飼育していた犬は、ミジーという名のメス犬であった。マルとムギの服従訓練の完成形がこのミジーだった。
ミジーは、ニコルの話す言葉を正確に理解しており、さらにはアイコンタクトで、コントロールすることができるまでになっていた。
極めて従順であり、シカ猟でシカに接近する際の動きなどは、まさに人間が行う「抜き足差し足」を真似たようで驚かされた。
一方、ニコルが好きなあまり、犬小屋での生活が嫌いで、すぐに母屋に入りたがる癖があって、それが愛嬌とも思える。
ミジーの犬小屋は、周囲を2mのフェンスで囲われており、面積は四畳半ほどだろうか。
ニコルが日中留守にする際には、大人しくこのスペースにいるのだが、ニコルが戻ると出入り口を開けるよりも早く、フェンスを軽々と飛び越えてしまうのだ。
フェンス内から脱出すると、あとはニコルの足元から離れようとはしなくなる。
来客があるときには、母屋から犬小屋へと移動させるのだが、ニコルが在宅している限り、その移動は徒労に終わる。
帰宅時と同様に、軽々とフェンスを乗り越えて、ニコルの足元へと戻ってしまうのだ。
2mのフェンスを飛び越える跳躍力は想像できなかったので、最初はどこかに抜け穴があるのだろうと松山は思っていたが、実際に飛び越える瞬間を目撃した時の驚きは、犬という生物の概念を打ち破るほどのものだった。
垂直の壁を、まさに駆け上る様子は、それまでに見たことのない犬の姿であった。
運動能力の高さ、服従心など、どれを見てもこれほどのレベルの犬を松山は見たことがなかったが、そのミジーを育て、訓練したニコルから見ても、訓練に対するマルの覚えの早さは優れたものであった。
素材の良さは、先輩犬の成長から見ても、申し分ないものだった。
その後、ムギと競い合うように、またミジーが先輩役として模範を示すことで、2頭の子犬の訓練は順調に進んでいった。
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