第5章 ヘリコプターハンティング 第1話

 ニュージーランドは、日本と違い、奥山に続く林道はほとんど存在しない。そのため、猟野での機動力として、馬、トラクター、ATVなどが使用される。


 ジムの会社でもATVが良く利用されている。業務内容に応じて、時折使用するのが、ジェットボートとヘリコプターであった。水深の浅い河川を高速のジェットボートで上流の現場へと移動は、観光地で乗った高速艇よりもエキサイティングなものだった。

 

 さらにエキサイティングだったのは、ヘリコプターでの移動と機上からの狙撃だった。

 

 多くの機材を運び込まなければならない現場では、ヘリコプターに勝るものはなかった。


 日本でも、山小屋への荷揚げにヘリコプターが使われるが、同じように何トンという資材を運搬することを考えた場合に、ヘリコプターを使うことは極めて合理的な方法だろう。


 さらに、機上からのシカ、イノシシの捕獲は、日本では経験することができないものだ。


 ある日、ジムから呼び出された松山が、指定された山村の駐車場へ車で移動すると、すでにそこには4人乗りのヘリコプターが着陸して給油をしていた。


 機体は、アメリカRobinson社のもので、同社が1986年に発表した4人乗りのヘリコプターだった。紺色のスタイリッシュな機体は、ライカミング製6気筒O-540エンジンを搭載し、200km/hでの巡航が可能とのことだった。

 

 今回は、ジョージが射手として搭乗し、シカの捕獲を行うとのことで、松山はその助手ということでの参加であった。


 既に前日まで燃料を入れたドラム缶4本が現地に運び込まれており、早朝に最寄りの飛行場から到着して、給油しているタイミングでの合流となった。

 

 ジョージもすでに到着しており、準備に入っていた。


「マツ、ヘリコプターのドアを外すから手伝ってくれ」


 早々に松山を呼ぶと、助手席、後席のドアを持ち上げ蝶番から外して、ドラム缶の横まで運ぶ作業を行った。ヘリのパイロットは、ジョージの友人でもあり、ヘリコプターハンティングの際に協力をお願いする元空軍パイロットのスミスであった。


 彼は、レイバンのサングラスにヘルメット姿でドラム缶から機体への給油作業を行っていたが、時間で使用料が変化するらしく、慌ただしく作業を進めている印象だった。


「いつもなら、パイロットと射手の2名で作業するから、スミスが持っている二人乗りの機体を使うのだが、今日はマツも載せるから、別会社からのレンタルだ。時間でレンタル料金が上がるから、午前中には機体を返却したいので、急ぐぞ」


 ということで、捕獲に使える時間は約3時間、その間に何頭捕獲できるかは、時間との勝負となる。


 コスト管理も含めて無駄なことはやってはいられないという状況が、松山にも良く理解できた。

 

 スミスとの簡単なあいさつを済ませると、急いでいると言ったにも関わらず、駐車場脇にあるプレハブ小屋の前で朝食を食べることになったのは、少々意外だった。


「ヘリは、給油して腹いっぱいだから、俺たちもまずはしっかり食べないと」

と言うと、ジョージはパンにピーナッツバターを塗り、ベーコンとゆで卵をおかずに食べ始めた。


「マツ、おはよう。君は、乗り物酔いはしないか」

と聞いてきたのはスミスだった。


「はい。乗り物酔いはしません」


「そうか。じゃ、しっかり食べて」

というとヘルメット姿のまま、ジョージと同じように朝食を食べ始めた。


 ジョージとスミスの話は、早口でなかなか聞き取れなかったが、最初のフライトでジョージが射手としてシカを撃つところを松山にプロモーションビデオ用の動画を撮影させたいとのことで、そのためいつもの二人乗りではなく、四人乗りの機体をお願いしたということがわかった。

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