第12話 Logic system



「そんなことができるの?」と、わたしはフェルディナントに疑問を呈した。


事も無げに彼は「まあ、かんたんさ。1960年代だって、精神科医は薬品で患者を治していたけれど、メカニズムとして脳、思考のスイッチは薬品で動く、って事なんだね。

だから麻薬なんてものがある。僕らはそれ、神経内分泌を起こしている神経電流を計測した、って事」




わたしは、よくわからなかったけれど「悪意のある人って

そう言えば興奮してるものね」



合点、フェルディナントは

「そうそう、声も硬直してるし、表情もそう。脳神経内分泌物質のバランスを計測すると、ノルアドレナリンのレベルが高いし、関連する神経が異常興奮している」



「どうしてそうなるの?」と、わたし。



「まあ、簡単で。もともと人間の闘争ってのは

殴り、殴られることを進化の課程で覚えてきたけど

今、そういう悪意のある人達は、殴り合いがないから

悪意だけがいくらでも増長してしまう、って事なんだね。不健康なんだ、要するに。その行動力を社会に役立てればいいのに、私利私欲の為に使うから悪意だ、と言われる。」



フェルディナントは、倫理観を示した。



「行動力があるのは結構な事なのさ。自分のため、じゃなくて社会全体の為に使うなら」



と、どことなくフェルディナントはドイツ人らしい感覚で。


「じゃあ、この機械で原発をなくしちゃおうか」と

わたしは冗談半分に。



フェルディナントは笑いながら

「原発は機械だから悪意はないもの。まあ転送できないことはないけれど、それにはレーザービームが届く距離に

いかなくてはならない。つまり、君も放射線被爆者になる」



そっか、とわたしはすこし落胆。

「じゃあ、悪い電力会社の偉いひととか、政治家を善人にすれば」



「政治とか会社の経営って、時には悪意が必要なんだよ。もし善人にしたら、たちまち悪い奴らに騙されてしまう。だからだーめ。」


フェルディナントは、ちょっとくだけた口調になって

「でも、全員善人になれば、ほんとにいいんだけどね」



峠道は、やがて下りになった。


ゆっくりと下っていくと、小さな湖が見えた

食べかけだったランチの続きをしようか、と

わたしはフェルディナントに言い、湖のそばに

ワーゲンちゃんを止めた。


エンジンを切ると、あたりは静かになった。


「ここに、もし眠っている人がいたら、ワーゲンのエンジン音を煩いと思うかも。それを悪意と捉えるかも。」と

わたしは思った。



善悪って、ドメインの問題。

みんなが同じドメインで、お互いに仲良くすれば

みんなが善人でいられるのに。

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