第21話 99
それからわたしは、アルバイトをしたりして
なぜだかわからないけど、ドイツに行ってみたくなって。
飛行機に乗った。
もちろん、日本の原発事故が無かったのだけど
なぜだか、ドイツは原発を廃止して
新しい、トリウム原発と言うものを研究していると言う話だった。
それはどうでもいいのだけど。
わたしは、フェルディナントの先祖に当たる人々に
会ってみたくなって
たぶん、そのために。
飛行機に乗ってドイツに下りた。
思ったよりも寒い、田舎なところで
日本だと、北海道のハズレみたいなところだなぁ、とわたしは思う。
こういうとこなら、きちんとルールを守ろう、そういう気持ちにもなるんだろうな、そんなふうにも思った。
日本みたいに、ごちゃごちゃ人々がいて
みんな適当に、勝手なことをしているとこだと
自分ひとり、ルール守っても損するだけ、そんな感じもしないでもないし。
わたしも、普段は
けっこういい加減なことをしていたりもした。
環境に流されていたんだな、と思う。
空港はわりと呆気なく通過でき、わたしはとりあえず空港のそばのレンタカーショップに向かった。
バスや列車を乗り継ぐにはちょっとドイツ語が不安だったし、何より自分で運転してみたかった。
日本で乗っているような空冷のワーゲンちゃんはさすがに無かったが、新しいビートルがある、と言うので
それを借りる事にした。
走り出すと、普通の車。
形が似ているだけで、ワーゲンちゃんみたいな個性は何もない。
それは仕方ないけど。
個性的な物は、扱いにくいとそう思われる事も多いから。
わたしも、ゼミの教授やサークルの先輩たちに
ホントの気持ちを伝えると、素直じゃないとか、言われたりする。
かわいい振りをして、黙っていれば
それなりに丁重に扱ってくれる、のだけど。
そんなのは、嘘。
個性はみんなに、普通にあるんだと思う。
だけど、うまく世渡りするために
みんな、ホントの気持ちを隠してるんだと思う。
新しいワーゲンちゃんは、なんとなくそういう感じかな、みんなに買って欲しいから
ホントの気持ちを隠してる、そんな感じ。
お化粧を流行りのスタイルにして、自分の顔が誰だかわからないようにしてる方が安全、そんな気持ちに似てるかな、とも思う。でも、それってなにか変。
そう思うと、新しいワーゲンちゃんは
すこし、愛おしみを感じた。
君も、一緒なんだよね。
そんなふうに言ってるような気がした。
みんな、ほんとの自分を
どこか、隠して。それが世渡りって、そう思うけど
でも、女の子は仕方ないところもあるって、わたしは思っている。
どうしてって、結局弱いんだもの。傷つくことも多いし。
男の子みたいに、ぶつかりあって行けないから。
だから、フェルディナントがすっきり割り切るのが羨ましいって思った。
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