第22話 黒い森

物語で言うみたいな、ドイツの黒い森は

本当に黒くはなくて(笑)


遠くから見ると、葉っぱが茂っててそう見えるだけ。


でも、黒いって言われるとそうかもしれないな。



わたしは、ニュー・ワーゲンちゃんのフロントグラス越しに

その森を見ていて。


ちょっと、果てしないような気持ちになったけど


どこかで、グレゴリー聖歌が聞こえてきそうな風景に感動した。



いつも、こんな森を見て育つと

彼みたいに、静かな人になるのかな、なんて思って。


でも、ドイツの反対側のスイスでは

同じような森を見て、ハイジが楽しく

ヤギさんと遊んでいたりしてたのかな、と思うと

なんとなく楽しくなって。

だって、ハイジは全然静かじゃないもの。





♪やーばらーばらりほー


と歌いながら

ニュー・ワーゲンちゃんと少しドライブ。



ホントになにしに来たんだろ、って思ったけど

別にいいんだもん、来たいから来たの、って(笑)

わたしはそういう子だから。



なんとなく、イメージで

お母さんに言い訳するような、そんな気持ちで

森の中を駆け抜けると


ひろーい野原の中に、お家がぽつりぽつり。



こういう所だから、スピードを出す車が多いのかな、なんて思ったりもした。



そのお家の一軒、青いお屋根のお家には

白い、ガレージのような作業所があって。


そこが、今日の旅の目的地。



彼の、ご先祖さま(笑)にあたる人、ポルシェ博士のお孫さん、なのかなー。

よくわからないけど。


ここで科学の研究者をしていると

インターネットで探して。


私の体験をメールしたら、興味を持ってくれて。



機会があったらお会いしましょう。


そう返事が来たから、機会を作って来ちゃったって

そういう事なんだ。



ちょっと期待はしてた。

なにかに出会えるような、そんな。





わたしは、ニュー・ワーゲンちゃんをパーキングして

どきどきしながら、そのお家の扉をノックしようかな、と思って。

そのまえに、ドアチャイムがないかなぁ、とか

辺りを見回した。


きょろきょろしていると、不意にそのドアがす、と開いて。

中から出て来たのは、ひげもじゃのおじいさんかと想像してた(笑)けど

そうじゃなくって。


すらりとした好青年。


びっくりして言葉がでなくて。



もともと、ドイツ語なんてわからないから

言葉はでないんだけど(笑)。




彼は、そんなわたしをニコヤカに迎えてくれて、どうぞ、と


その研究室に。



もちろん・その"どうぞ"もドイツ語だったけど。

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