第4話 びゅんっ

なだらかな坂道を楽しく、のんびりと登っていたら


バックミラーに、ヘッドライトのパッシング。


車間距離を取らずに、ぴったりとついてくる



「嫌な車」とわたしがつぶやくと


ラジオの音楽に混じって、ワーゲンちゃんは


「さっきの奴らだね」と、平然と言う。


よく見ると、サービスエリアにいた男の子たちがBMWの5に乗って。


からかいに来たのかしら。


いつも、こういう事があってイヤになったりする。


高速なんだから、追い越していけばいいのに。



「じゃ、アクセルをいっぱい踏んでごらん」


ワーゲンちゃんはそういう。

そういえば、一度もそうしたことなかったな、って

ぐい、と踏んでみる。



エンジンの音が急に大きくなって。


同じばたばたばた、の排気音のまま

まるで景色がワープしたみたいに。



スピードメーターの針がびゅん、って跳ね上がって。



いつのまにか、坂道を登り切って下りにさしかかっていた。



高速の出口はもうすぐ。



「どうなってるの、これ」


呆気に取られたわたし、アクセルを元に戻して。



もちろん、BMWなんてバックミラーにも写らない。




「うん、僕はワーゲン、だけどエンジンはポルシェが作ったんだ」




平然と、ワーゲンちゃんは言う。



「そんなことできるの?」って、尋ねたわたし。



ワーゲンちゃんはくす、と笑って「だって、僕はポルシェが作ったんだし、ポルシェのエンジンはワーゲンがベースだったんだ、もともと」




知らなかった。そんな凄いワーゲンちゃんだったなんて。


かわいいのんびり車だと思ってたけど。




「うん、ふつうのワーゲンはそうさ、でも僕は違う」




物静かで、頼りがいがあって。

やっぱり、理想の恋人かしら....



「おっと、奴らが追いついてくる前に高速降りなきゃ」




わたしは、アルプスの入り口にあるインターを

左に降りた。





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