第32話 The Primal Scream

侵略、つまり攻撃を好む人は

幼い頃に愛されてない、と思い込んでいる人ばかりなんだよ、と


フェルディナンドは言った。



「大抵は思い込みだけど

中には本当に愛されてなかった人もいる。そういう人の親も、愛された記憶がないと思い込んでるんだね、統計では。幼い子供、生まれたばかりの子供にとっては環境が全てさ。そこで欠乏があれば、無意識に避けるような人格になる。つまり、途方もなく欲望が深くなり、侵略を好む。」



わたしには、途方もないような話だけど。ちょっと、わからない。





彼は、構わずにこのシステムの理念を説いた。



「そういう親の関心は、欲望、なんだ。つまり、脳の中では欠乏への警戒心が元々、それに依ってノル・エピネフリンやバソプレシンが作用する。つまり、このシステムで神経内分泌細胞の活性を変えればいいのさ。貧乏だって、幸せにはなれる。そう思わない?」と彼は珍しく饒舌だ。


ちょっと怖いくらいに一本気、科学者ってそうなんだろうか。


「争わなければ侵略は起きない、悲しい記憶を持った子供も増えない。ひと世代、つまり20年経てば世の中は変わる。きっと」



そうして、彼はこのシステムを使って経済も、国境も、政治も、宗教も。

全ての枠組みを悪用した争いは無くなる、そう考えていた。



本来、宗教はひとを幸せにする手段だ。

経済などもそうだ。

争いを好むひとたちが

それを理由に争いたがるだけで

ほとんどの人は迷惑を被っている。


それが、なくなれば



それはひとつの理想かもしれない。


でも、なんとなく。過去に、だれか科学者がいれば

このシステムを量産して貰うんだけれども。とも

彼は理想を述べた。




ひとの気持ちを操作するって怖くない?って

ちょっと思った。


彼の説は、精神分析学や

生理学、生態学の知見に基づいているそうで

わたしは大学生だから、それは理解できる。



社会、経済。

様々なものが、ひとの幸せを歪めてしまっていて。

だから、赤ちゃんが生まれても

その幸せよりも欲望を重視する親が、子供を孤独にする。




その結果、傷ついた心が

大人になってから、ひとの心を傷つける。



その歪みを、科学で治療しようというのが

彼の理論。




それで、侵略のために原子力を使おうというひとの心から変えてしまおうと言うのは

画期的だけれども。




異論はないのだろうか。



学会は何と言っているのだろう?未来の。



「ねえ、フェルディナンド?」




彼は冷静だった。「傷ついた心を健康にする事が、どうして怖いのかよくわからないな。僕には。気分転換をしてもらうだけなのに。薬の代わりに、自身の機能を向上させるだけなのさ。」

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