第2話 理想の恋人

ワーゲンちゃんは、機械なんだけど

でも、作った人の温もりがする。


そう思いながら、私はクラッチをつないだ。


そのまま、バタバタのままワーゲンちゃんは平気で走り出す。


頼りになる感じ。うれしい。


恋人にするなら、こんな人がいいな(笑)なんて。

物静かで、聡明で。

頼りになって。


なんて....(笑)。



ワーゲンちゃんは、平然とアクセルに沿ってゆっくり走る。



高原の方へ行こうかな、涼しい。


わたしは、山の方へ向かうフリー・ウェイを目指して新しい道、3車線もあるその道の

真ん中のレーンを、50km/h で走った。


ワーゲンちゃんは、ハミングするくらいのスピード。



こんなふうに、わたしのペースに合わせてくれる人がいいな、なんてふうにも思う。


キャンパスのお友達は、なんとなくみんな

ペースが早くて、落ち着けない。


男の子たちも、なんか

ほんとのかっこよさ、ってわかってなくて

だらし無いかっこが流行ってるから、って

汚いかっこして、黒いバンに乗ったりしてる。


でもそれって、誰が決めたの?

心心でほんとにカッコイイ、って思ってる?


いつも、そんなふうに思ってた。



遊びに行こう、なんて誘う男の子もいるけど

みんな、そんな感じで


ワーゲンちゃんみたいに、安心して寄り添える感じの人、いなかった。


うん、でもいいんだ。

ワーゲンちゃんに出会えたんだもの。


わたしは、インターチェンジから高速に乗って。

左のレーンを80km/hで走った。


窓を開けると、さわやかな風。


街を離れて、森の見える高速を走ったら

気持ちまで、軽やか。


緩い登り坂で、スピードが落ちる。


坂の向こうには、もう万年雪を頂に望むアルプスが見えていて

ワーゲンちゃんのフロント・ウィンドウ越しに見るとほんとにヨーロッパ・アルプスみたい見える。


いつか、だけど

ほんとにヨーロッパを走ってみたいな、なんて

ふと思った。


登坂車線に移って、のんびりと走っていると


いつも寄るサービスエリアへの入り口が見えた。



ここは登坂車線から入るので、ゆっくり走っていると割り込まれて危ないから、なんてスローダウン。

思った通り、黒いバンや白いバン、家族連れかしら、なんで家族旅行なのにあんなにセカセカと走るのだろう、といつも思っていたけれど

今日も出会った。


ワーゲンちゃんに乗っていると、そういう人たちが気にならない。


不思議だけれど、そんな低俗な人たちはどうでもいいや、って思う。


ワーゲンちゃんとの最高の時間に、そんな人たちの事は考える余地はなかった。


これって恋心みたい(笑)なんて思ったりも、する。

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