恋人は’77年型
深町珠
第1話 ボンネットに太陽
風さわやかな7月の朝、おやすみだと早起きしちゃうな、と
ひとり微笑みながら、わたしはカー・ポートに降りて行く。
白いコンクリートの階段みっつ、芝生の庭には
きのうから、うちに来た
古いフォルクスワーゲン。薄いベージュだから、やっぱりドイツ語で呼んであげたい気持ち(話せないけど(笑)
さあ、今日はどこに行こうかな、って思って
まるいボンネットにホコリが乗ってたから
シャワー。
きらきら、水玉がミントキャンディみたいにおいしそう。
風に舞ったら、ボンネットに虹が。
おひさま、きらきら。
楽しい日曜の朝。。。
お屋根のまるいところや、ボンネット、それと後ろのエンジンフードのところにも水玉が綺麗に流れて。
クロームのバンパーとか、まるいヘッドライトにも、きらきら。
きれいなタオルで拭いて、ピカピカ。
ワーゲンちゃんも笑ってるみたい。
お空には夏の雲、もくもく。
さあ、でかけよう。
わたしはお部屋に戻って、バスケットランチ、今朝一生懸命作ったそれとミルクティーの入ったポットを持った。
ポットは、アラジンの魔法瓶。
アラジン、なんて魔法のランプみたいで
魔法瓶にピッタリ、なんて思ったけれど
ほんとは歴史のあるイギリスのポットらしい。
でも、どうでもいいや。気に入ったんだもん。
ワーゲンちゃんだって、古いから故障すると大変だよ、なんて
キャンパスのみんなは言う。
けど、いいの。
気に入ったんだもん。
壊れたって、直すんだ。
そう思って、スナップオンの工具も買ったんだ。
使い方わからないけど(笑)
変だ、って友達は言うけど
これがわたし。わたしは私。
それでいいの、って思う。
ワーゲンちゃんにバスケットを積んで、
エンジンの鍵を回す。
ゆっくり、スターターが回って
エンジンがかかる。
モーターボートみたい、って
思ったり。
ハンドルは、ナルディ。
イタリアのだから、ドイツの車にはちょっと似合わない、なんて言われたりするけど
確かに、木と金属の美しい感じはイタリア、芸術的でドイツの質素な感じとはちょっと違うけど
それもいいかな、なんて思ったり。
ここは日本だもん(笑)
ワーゲンちゃんは、走りたそうにエンジンの音をバタバタ、と立てる。
お散歩行きたいよー、ってバタバタしてるわんこみたいで、かわいい。
床から出ているクラッチを踏んで、鉄の棒のシフトレバーを1へ。
静かに、レバーに歯車が噛む感触が伝わる。
こういう機械っぽさは、ドイツだなぁって思ったりする。
お友達の車は、みんな静かできれいな感じだけど
なんとなく、温もりがないな、そんな感じ。
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