第30話 愛

「もっと怖いよ」とわたしはつぶやいた。



彼は、まあ、そう思うかもしれないけど、と言って「元々、人が野生で生きて来た頃は、野山を駆け回っていたからそれで良かったのさ。でも、今は侵略なんて必要ないのさ。穏やかに、分かち合って生きるべきなんだよ。」


彼の言葉は説得力がある。

でも、それをひとりの科学者がしてしまう事は

自然への冒涜じゃないかしら、と

わたしはぼんやりと思った。



皆が望んで、それで

原子力を選んで、死に絶えるなら

人間は、そういう運命にあった、んじゃないかしら。


と、なんとなくわたしは思う。




しばらくして、大統領から無電が入る。


ホットラインにつなぐと、「軍部は、もう原子力計画を止められる勢いではない。私にもどうしようもない」


と、落胆するような言葉が帰ってきた。



侵略の快感、恐るべし。

敵国ならどうなってもいいと言う人々が、沢山いるんだな、と

わたしは悲しくなった。



軍部に女の人はいないのだろうか。


女の人なら、わかってくれる....



わたしは、なんとなくそう感じた。「男ってどうしてそうなの」と、声に出してしまう。

フェルディナントは得心、と言う顔で

「その通りだ。さっき話した神経を作り替えると言う例、あれは男性型の思考を少しずつ弱める、と言う事なんだ。具体的に言うと、闘争型ホルモンのバソプレシンの働きを少し弱めて、相対的にオキシトシン女性型ホルモンを効かせるって事なんだ。薬はもう、実験室では成功している」


それはそれで怖いよ(笑)とわたしは思った。


「それで、男の子はみんなニューハーフみたいになっちゃわないの?(笑)」



フェルディナントは笑い、君って面白い、かわいいと言い「そういう事は起こらないけど、もしかすると後の時代で男らしさがない、とか言われるかもしれないね」





....草食系、ってそのせい!? (笑)


「でも、薬をどうやって過去の世界で作るの」と

わたしはふと、思った事を言った。



フェルディナンドは、事もなげに「薬は例え話さ、つまり、脳の中でね、攻撃的な思考を誘うホルモン、それを分解させやすくすればいいのさ。ほら、爽やかな男ってのは怒ってもいつまでも引きずらないだろう?あれは、分解が早いからなんだ。つまり、今まで使って来たレーザーガンでね、その代謝の流れを良くすればいいのさ。それか...」



「それか?

わたしはドキドキした。何が起こるんでしょうか、と。




彼の言葉は、意外だった。


「愛を思い出させれば、いいのさ。愛のある人々は攻撃はしない。」




愛、か。

そうかも。

キャンパスの友達だって

幸せそうな人は

いじわるな事なんてしないし。


いつも幸せ、っていい事ね。

下町のおばちゃんみたいに、みんな仲良くできれば。

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