第12話:憧憬・フローラ視点

「ごめん、悪かった、無理させてしまったね、直ぐ魔力を補うから。

 そのまま横になっていてくれ。

 イザベルはフローラ嬢が少しでも楽になれるようにしてくれ」


 頭が割れるように痛い。

 胸も張り裂けそうに痛む。

 明らかな魔力切れ状態です。

 魔境ではあれほど楽々と貴級魔術を発動できたのに。

 学院の中では上級魔術を使っただけでこの体たらくです。

 情けなさ過ぎて涙が流れそうになります。


 頭の痛みが嘘のようになくなりました。

 張り裂けるかと思うくらいだった胸痛も消えています。

 激しい飢餓感を伴っていた魔力切れの感覚がなくなっています。

 それどころか美味しい食事をお腹一杯とった時のような充足感があります。

 心と身体がとても満ち足りた感覚になっています。

 ロイド君が魔力を補ってくれたのですね。


 これがロイド君が言っていた魔力を増強する術なのでしょうか。

 それとも誰かの魔力を手に入れる術なのでしょうか。

 そうです、きっとそうです。

 誰かの魔力を手に入れる術があるというのなら、誰かに自分の魔力を与える術もあるという事になります。


 ロイド君はその術を使って私に魔力を分け与えてくれているのです。

 その術を使えるようになれば、他人の魔力を購入することができるのですね。

 ロイド君の教えを受けて、早くその術を覚えたいです。

 あ、目を背けておかないと、秘術を見てしまうかもしれません。

 そんな不正をしては真っ当に頑張っている人に失礼です。

 目を瞑っていれば偶然見てしまう事もないでしょう。


「ふむ、フローラ嬢は本当に真面目だね。

 こんな時にも不正をしないように目を瞑るか。

 普通の人間なら絶好の機会だと盗み見するよ」


 ロイド君がからかうように言いますが、そんな恥ずかしい事はできません。


「だってそんな事をしたら、ロイド君達の目を真直ぐに見れなくなっちゃうわ。

 わたしだって覚えたい気持ちがないわけではないのよ。

 でも、そんな気持ち以上に、ロイド君達と友達でいる方が大切だわ。

 それにこの機会を逃したら絶対に覚えられない訳ではないのよね。

 一生懸命頑張れば、いつか覚える機会が訪れるのよね。

 だったらようやくできた大切なお友達を失ってまで今覚える必要はないわ」


「フローラ嬢は本当に尊い存在だね、イザベル。

 私も実家の関係で多くの王侯貴族を存じ上げている。

 この学院にいる王侯貴族の子弟や令嬢の事も見てきた。

 でもフローラ嬢ほど高潔な令嬢は生まれて初めて見たよ」


「はい、私も数多くの王侯貴族の方々を拝見させていただいてきましたが、フローラ御嬢様のような気高い方は他におられません」


 もう、ロイド君もイザベルも大げさすぎます。

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