第38話:決断
フレイザー公爵領の領都領城の一室では穏やかな時間が流れていた。
次女のエレノアがウィリアム王太子を半殺しにしてしまった。
フレイザー公爵サイモンもキャサリン夫人もよくやったと思っていた。
だが家臣として表面上だけは反省してみせなければいけない。
完全に敵対する心算なら別だが、名門王族としては王家を立てる必要があった。
建前としては謹慎すると申し出て領地に籠った。
本音は王家、ウィリアム王太子が暗殺を仕掛けてくるのを回避するためだった。
まだ王家に宣戦布告するほどの恥をかかされていなかった。
エレノアが上手く立ち回ってくれればよかったのだが、脳筋脳魔のエレノアにそれを求めるの酷だった。
「どうなさいますの、あなた」
キャサリン夫人がうれしそうにフレイザー公爵サイモンに問いかけた。
「そうだね、ここはロイドという学院の執行導師殿の案に乗ってみるか」
フレイザー公爵は考える事もなく穏やかに答えた。
「宜しいのですか、キャンベル王家を見捨てるのは嫌ったのではありませんか」
キャサリン夫人は夫の苦悩を思いやっていた。
王国一番の名門公爵家で王族でもあるフレイザー公爵家がキャンベル王家を見捨てたら、他の王族や貴族もキャンベル王家を見捨てかねない。
夫がその混乱を避けたいと思っている事をキャサリン夫人は知っていたのだ。
「しかたないよ、ウィリアム王太子があれほど愚かではね。
エレノアの事を逆恨みして、私達に刺客を放ったというのだ。
これではこれ以上王国に留まる事はできないよ」
フレイザー公爵の言う通りだった。
万が一を考えて王都を離れたというのに、本当に刺客を送って来たのだ。
愚かな王太子と側近に味方する程度の刺客だ。
王侯貴族の誇りを護り、常在戦場の心を忘れないフレイザー公爵家の家臣を出し抜いて、フレイザー公爵やキャサリン夫人を殺せるはずがなかった。
未然に防がれて全ての企みが表沙汰になっていた。
それとフレイザー公爵がロイドの提案を受け入れて、分離独立戴冠を決めたのにはもっと大きな理由、絶望があった。
ウィリアム王太子が愚かなだけならまだ我慢できた。
どうしても我慢できなかったのは、ジョージ国王とメアリー王妃がウィリアム王太子と側近達の愚行を止めなかった事が、フレイザー公爵を絶望させたのだ。
今はその事を周辺各国と国内貴族に周知する事を急いでいた。
分離独立戴冠する事が仕方ない事だと認められるように動いていた。
「そうかもしれませんね、あなた。
私達は大丈夫でしょうけれど、フローラとエレノアは大丈夫でしょうか。
愚か者は二人にも刺客を送ったと聞きますが」
「お前も分かっているはずだよ。
もうキャンベル王家は終わりだよ。
刺客がフローラに刃を向けた時点で愚者は焼死することになるよ」
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