第39話:叙爵・シモン視点

「ロイド君、流石に王太女殿下や王女殿下を嬢で呼ぶのは不味くないか」


 ピエール君の言う通りだ、俺も不味いと思う。

 学院の建前は分かっているが、現実も知っている。

 貴族の子弟子女と平民は極力同じクラスにならないようになっている。

 平民と同じクラスにいる貴族の子弟子女は学院に残りたい下級貴族だ。

 なかには上級貴族に虐められたくなくて平民クラスに入る者もいる。

 だが大抵は上位貴族と知り合いたくて貴族が集まるクラスを選ぶ。

 これが学院の理想に反する現実だ。


「さて、俺の調べた範囲では皇族や王族であろうと例外はなかったぞ。

 ピエール君はどこからそんな話を聞いてきたのかな」


 でも、まあ、ロイド君なら理想を曲げないだろうな。

 だけどなぁあ、他のクラスの貴族連中の眼が怖いんだよ。

 以前はフローラ嬢の悪口しか言っていなかった連中が、今ではフローラ嬢と親しくなろうと露骨な掌返しをして、僕達に嫉妬の視線を向けてきている。

 まあ、エレノア嬢の噂を恐れて実際に近づいくる者は皆無だけどね。


「いや、どこから聞いたわけでもないけれど、普通そう思うだろ。

 他国の平民のままだったら、まだ常識のない平民の愚行だと通ったかもしれない。

 だけど今の俺達はフレイザー王国の宮廷貴族で家臣なんだ。

 心配するのは仕方ないじゃないか」


 これもピエール君の言う通りだ。

 今ではピエール君もドロシー嬢も僕もフレイザー王国の宮廷男爵だ。

 今まで全く宮廷作法を学んでいなかったのだ。

 大きなマナー違反をして死を賜るなんて絶対に嫌だ。

 まあ、フローラ嬢とエレノア嬢が敬称程度を気にするとは思っていないが、他国の貴族連中が騒ぎたてて問題を大きくするのは眼に見えている。


「まあ君達の気持ちが分からない訳じゃない。

 だが、学院の理想はあくまでも全員平等だ。

 ただ王家に仕える貴族として敬称を使いたいと言うのも理解できる。

 だけどいいのか、本当に。

 フローラ嬢に敬称など使ってみろ、確実に哀しがるぞ。

 フローラ嬢が哀しい顔をしたのを見て、エレノア嬢がどうするかな。

 エレノア嬢を怒らして無事に済むと思っているのか」


 ロイド君の言う通りだ。

 確かにフローラ嬢が哀しんだらエレノア嬢が何をしでかすか分からない。

 絶対にエレノア嬢を怒らす訳にはいかない。

 はあ、他のクラスの貴族連中が何を言おうと、無視する以外手はないな。


「ああ、そうそう、もう三人ともフレイザー王国の男爵なんだぞ。

 他の国の貴族が無礼な事を言ってきたら、決闘を申し込めるから。

 今の三人と決闘して生き残れる貴族の子弟子女はいないから」

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