第27話:溺愛1・イザベル視点

 眼の前に昏々と眠られるフローラお嬢様がいる。

 今直ぐお助けしたい。

 起こさないようにお姫様抱っこして学院にお戻しする。

 まずは安全な所にまでもお連れすることが何より大切だ。

 復讐などそれからやればいい。


 だが、今は我慢するしかない。

 ロイド殿の話を聞いた以上、我慢するしかない。

 フローラお嬢様のために、ここは歯を食いしばって我慢するしかないのだ。

 それがお嬢様の為だと頭では分かっている。

 問題はこの激情を抑えて我慢できるかだ。


「ちっ、本当に何の手出しもせずに連れて行くのかよ。

 味見くらいしたってバレねえよ」


 誘拐犯の一人が聞き捨てならない言葉を吐いた。

 今直ぐ舌を引っこ抜いてやりたい。

 全ての歯を殴り砕いてやりたい。

 鼻も耳も引き千切り、両眼をえぐりだしてやりたい。

 怒りの激情を抑えるのに全精神力が必要だった。


「お前はバカか。

 本気で死にたいのか。

 国王陛下の勅命は無傷で連れてこいだぞ。

 それに逆らって生きていけると思っているのか。

 国王陛下は学院生を誘拐させるほどフローラ嬢に固執しているのだぞ。

 後々の国際問題を考えないほど非常識なんだぞ。

 フローラ嬢を傷者にした家臣にどんな報復をするか想像もつかないのか。

 俺はお前の道ずれに殺される気はないからな。

 俺に殺されたいのなら動けや、出来損ないのボンボンが」


「ぐっ……」


 誘拐の指揮官がプランケット侯爵家のジェイムズに言い放った。

 まるで虫けらを見るような眼つきです。

 もう殺す気になっていますね。

 今のジェイムズの発言を王に報告する気でしょう。

 ジェイムズだけが殺されるのか、それともプランケット侯爵家ごと処分されるのか、恐らくは侯爵家ごと処分されるでしょうね。


「今の言葉は、キングセール王国のチャールズ国王が今回の黒幕だという事ですね。

 私の敬愛するフローラお姉様を誘拐してどうする心算なのかしら。

 嘘偽りなく真実を話していただきましょうか」


 ようやく来られましたか、エレノアお嬢様。

 フローラお嬢様の誤解を解いて劣等感も解消させる。

 そんな信じられない提案を受けたからこそ、ここまで我慢していたのです。

 ロイド殿が嘘をつくとは思っていませんでしたが、ここまで上手くいくとは信じられない所がありましたが、現実になりましたね。


「うっうううううん」


 本当に信じられない事ですが、事実なのですね。

 ロイド殿の計画通りに準備ができた途端フローラお嬢様が目を醒まされそうです。

 普通ならロイド殿の仕掛けた謀略だと思ってしまう所です。

 いえ、今でも全く疑っていないわけではありません。


 ですがロイド殿の言われる通り、フローラお嬢様と仲良くなるためなら。

 フレイザー公爵家と友好関係を築くだけなら。

 もっとゆっくり全く危険のない方法の方が確実です。

 だからロイド殿を信じる気持ちの方が強いですね。

 さあ、エレノアお嬢様、フローラお嬢様が目を醒まされる前に荒事はすましてくださいませ。

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