第33話:苦笑・シモン視点
エレノア嬢がフローラ嬢と絶妙な位置をとっている。
フローラ嬢が結印するのに邪魔にならない最短の位置だ。
しかも常にフローラ嬢が用意している魔術を助ける魔術を準備している。
フローラ嬢の役に立ちたい一心なのがひとめで分かる。
分かるが、何とも言えない姉妹関係だな。
大体の事情はクラスに広まっている噂を耳にして知っている。
信じられないようなドロドロの関係が多いと聞く王侯貴族家だが、フレイザー公爵家はその中でも笑うしかないような家庭環境だった。
公平に見て元凶はウィリアム王太子という奴だが、フローラ嬢とエレノア嬢にも性格的に問題があると思う。
実際に目の前にして確信した、二人ともおかしい。
「エレノア嬢、狩った魔獣が痛まないように凍らせてくれ。
シモン君、ぼさっとしない、狩った魔獣を荷役に運ばせる」
「はい、すみません」
ロイド君に怒られてしまった。
今日は学院の実習じゃない。
放課後魔境に魔獣を狩りに来ているのだ。
今までのように護衛一人という制限はないんだ。
魔獣を狩れるだけ狩って雇った荷役に運ばせないといけない。
どうやらジェイムズ君達が殺されたようだ。
ジェイムズ君達が母国に帰ってからの情報だから真相は分からない。
だが噂ではフローラ嬢の誘拐に失敗して報復に殺されたと言う。
人体発火のような魔術で殺されたとも聞く。
しかも誘拐を命じた国王も含む千人近くが殺されたというのだ。
多分真実なんだろうな。
姉のフローラ嬢を虐めて国から追い出したと言うウィリアム王太子を、半殺しにしてフローラ嬢を追いかけてきたほどのエレノア嬢だ。
他国の王や貴族なら平気で殺すだろう。
チャールズという国王はバカ過ぎるな。
少し調べればどんな報復を受けるかくらい直ぐに分かるだろう。
その影響と言うのか、それともお陰と言うべきか分からないが、こうして毎日授業以外の時間なら自由に狩りができるようになった。
ジェイムズ君達キングセール王国の学院生が一人もいなくなった事で、学院の財政が悪化してしまい、その足しに学院生に狩りをさせるようになった。
素材の処理や販売に学院が関与して手数料を稼ぐのだ。
こんな下世話な事に力を入れるようになったのはロイド君がいたお陰だろう。
だがそのお陰で僕も莫大な金を手に入れる事ができた。
王級魔術士のフローラ嬢と帝級魔術士のエレノア嬢が魔獣を狩ってくれるのだ。
その販売額は特級の僕が狩れる魔獣とは桁が七つも八つも違う。
もう授業料や魔術素材料に苦しむことはなくなるだろう。
いや、この期間が長く続けば莫大な富を蓄える事が可能だ。
ただ問題はフローラ嬢との距離感だ。
下手にフローラ嬢に近づいて話しかけたらエレノア嬢に殺されるかもしれない。
フローラ嬢の前では何もしないだろうが、陰で殺されるかもしれない。
金が溜まったらパーティーから抜けさせてもらった方がいいだろうか。
それとも狩り以外ではフローラ嬢に近づかないようにしたらいいのだろうか。
その点をロイド君に相談してみよう。
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