第13話:プレゼント・ロイドことローレンス視点
心臓が早鐘のように激しく打っている。
同時に胸に甘く切ない痛みが広がる。
手や脇に汗がにじみ体臭が強くなっていないか心配になる。
百戦錬磨であるはずの俺が震えを抑えられない。
声が上ずらないようにするので精一杯だ。
「やあ、フローラ嬢、昨日は無理させてしまったね。
お詫びにこのネックレスと指輪を受け取ってくれ。
いや、別に深い意味なんかないんだ。
本当に昨日無理させて苦しい想いをさせたお詫びなんだ」
くそ、くそ、くそ、なんて見え見えの言い訳だ。
皇国にいる時には毎日のように贈り物をやり取りしていたではないか。
下心を隠した令嬢や夫人共には平気で歯の浮くような言葉を言っていたのに。
なんでこんなに慌ててしまうのだ。
こんなに焦っていては単なる詫びではなく、想いの籠ったプレゼントだとフローラ嬢にも周りの連中にもバレバレではないか。
「そんな気を使っていただかなくてもよかったですのに。
あれは私の魔力が少ないから起きた事で、ロイド君の責任ではないですよ。
それにこれはあまりに高価すぎますから、とても受取れませんわ」
よかった、本当によかった。
こんなバレバレの状態なのにフローラ嬢は俺の気持ちに気がついていない。
やめろ、止めてくれイザベル、お願いだからそんな眼で俺を見ないでくれ。
いや、俺だけではないのか。
フローラ嬢に対しても可哀想な子を見るような目で見ているのか。
今までずっと社交界をこの鈍感な状態で生きてきたのか。
「いや、これは高そうに見えるが大したものではないんだ。
それにこれは身を飾る宝飾品というだけではないんだ。
ちょっとした仕掛けをしてあるから、フローラ嬢に居場所が分かるんだ。
魔境の中ではぐれた時にも、これを身に付けておけば探し出せるんだ」
我ながら苦し過ぎる言い訳だな。
だがこのネックレスと指輪は何としても受け取ってもらわないといけない。
失伝されている魔力を蓄える宝石でできているからだ。
これさえあればフローラ嬢が魔力切れになる事はない。
昨日のように苦しまなくてすむようになるんだ。
ここは何としても受け取ってもらわなければいけない。
「フローラ嬢、ここは黙って受け取ってあげなよ。
ロイド君、昨日フローラ嬢を苦しい目にあわせた事を随分反省してたんだよ。
これを受け取ってあげないとロイド君も辛いままだよ。
ロイド君の苦しみを少しでも和らげるためだと思って受け取ってあげなよ」
ありがとう、ドロシー。
ドロシーが援護してくれたお陰で受け取るかどうか悩んでくれている。
おい、こら、ライル、何をニタニタ笑っている。
ここで余計な事を言って全てを台無しにしたら絶対に許さんぞ。
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