第2話:大陸連合魔術学院
フローラは消耗した身体を癒すために領地に籠る心算だった。
だが厳格な母親キャサリンがそのような逃げを許さなかった。
自分にも他人にも厳しい性格のキャサリンがフローラの逃げを許さず、大陸連合魔術学院への留学を強制したのだ。
だが決してフローラに対する愛情がないわけではない。
このままフローラが領地で朽ちていく事を可哀そうだと思ったのだ。
フローラには王太子との婚約を辞退したという傷がついてしまった。
王太子が散々悪口陰口を社交界で広めていた。
このまま何もしなければ公爵家長女に相応しい結婚が望めなくなってしまう。
よくて公爵家の次女程度の相手。
下手をすれば下級貴族と結婚させられるかもしれない。
そんな事にはさせられないとキャサリンは考えたのだ。
これこそ価値観の違いだった。
フローラはこのまま領地で静かに暮らしたかったのに。
「すまないわね、イザベル。
私の所為で、誰も知り合いのいない所について来させてしまうわね」
フローラは心からイザベルに謝った。
イザベルはフレイザー公爵家で突出した戦闘力を誇る戦闘侍女だった。
フローラを愛しているキャサリンが護衛役に選んだのだ。
フレイザー公爵家なら多くの護衛や侍女をフローラにつけることができる。
だが自立心と公平を基本理念の一つにする大陸連合魔術学院では、王侯貴族でも側仕えは一人しか学院に連れていけないのだ。
その一人に選ばれたのがイザベルだった。
「とんでもありません、フローラ様が気になさる事ではありません
主家に忠誠を尽くすのが家臣の道でございます。
それに学院内に御供できるのは私だけですが、他にも付いていく者はおります。
乳母殿や側仕え達が学院外に屋敷を借りて見守ることになっています」
イザベルがあっさりとキャサリン夫人の裏技を打ち明けてしまった。
表面の厳しさと内面の母性に大きな差異があるのがキャサリン夫人だった。
キャサリン夫人は、弱気になったフローラを甘やかしてしまうのは、フローラのためにならないと考えていた。
だがイザベルの考えは逆だった。
これ以上フローラ様を追い詰めてはいけないと考えていた。
だからキャサリン夫人のフォローを打ち明けたのだ。
今は分かり易い母性が大切だと判断して、主命に逆らう一世一代の決断をした。
「ありがとう、本当にありがとう、イザベル。
お陰でもう少し頑張ることができそうよ」
「いいえ、もうこれ以上頑張る必要はございません、フローラ御嬢様。
御嬢様はもう十分に頑張られました。
これからは学院で学生生活を楽しまれてください。
せっかく奥方様が多くの人達と交流できる機会を与えてくださったのです。
身分関係なく魔術を学ぼうと集う人達は、この国の社交界で蠢く人達とは全然違うと思いますよ」
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