第3話:平等

「やあ、フローラ嬢、何か分からない事があったら遠慮せず聞いてくれ。

 先生が紹介してくれたように俺は学級長だから、何でも相談に乗るぜ」


 フローラに話しかけているのは学級長のロイドだった。

 大陸中に支店を持つ大商人の息子だという。

 多くの王侯貴族がいる学級で大商人の息子とはいえ平民が級長を務める。

 身分に厳しい大陸では普通考えられない事だった。

 爵位ではなく魔術能力で立場が決まる大陸連合魔術学院ならではの現象だ。


「ありがとうロイド君。

 今の所は何も相談する事はないわ。

 もし何か分からない事や心配な事があったら相談させてもらうわ」


 フローラは戸惑いながらも君付けでロイドを呼んだ。

 普通なら公爵令嬢は平民のロイドを呼び捨てにする。

 それ以前に平民から王侯貴族に対して話しかける事など許されない。

 だが大陸連合魔術学院内にいる間は爵位による身分差を一切認めない。

 爵位による身分差を求めたら即座に最低でも追放処分になる。

 爵位を笠に罪を犯していたら処刑される事すらあるのだ。


 大陸連合魔術学院内で生徒は平等。

 男女の差も学年の差も認めない。

 だから名前の呼び方も厳格に決められている。

 女性には嬢を付け男性には君を付ける。

 平民女性も貴族のように嬢を付けて呼んでもらえる。

 男性は殿下や閣下、卿や様を付けてもらえず、一律君付けだ。


「御嬢様、ロイド君にはお気を付け下さい。

 商人の息子という事になっていますが、明らかにおかしいです。

 ロイド君にも護衛にも明らかな剣ダコがあります。

 しかも身にまとう雰囲気が達人級名人級です。

 上手く抑えていますが私には分かります」


 イザベルは心底驚き恐怖していた。

 イザベルは自分がキャンベル王国で上位十人に入る強さだと思っていた。

 自惚れで思っているわけではなく、何時でも主家のために戦場で働けるように、厳格に王侯貴族や騎士戦士の強弱を測っていた。

 普通に戦って勝てないような強敵を相手にしても、主家のためにどうやれば勝てるかを考え実行するために。


 そんなイザベルだからこそ、ロイドと護衛の強さに気がつくことができた。

 正面から戦っても罠を仕掛けても勝てないと思うほどの強さだった。

 しかもロイドの強さはその武芸だけではないのだ。

 魔術に関しても他を圧倒する戦闘力があるのだ。

 才能があると認められて、平民でありながら入学を許された級友達を全員押しのけて、級長を務めているのだ。


「分かりました、油断しないようにします。

 でもイザベル、大陸連合魔術学院を愉しめと言ってくれたのは貴女ですよ。

 ロイド君は私以上に事情のあるのかもしれません。

 変に探りを入れないで、普通に学院生活を愉しみましょう」


 フローラは学院に来て心が解放されていた。

 少なくとも転入させられた学級はとても居心地がよかった。

 言動から王侯貴族と分かる人達も、とても気さくな雰囲気をしていた。

 ここでなら苦しい思いをしなくてすむかもしれないと期待ができた。

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