第8話:努力と才能・ロイドことローレンス視点

 素晴らしい、これほど基本に忠実で美しい呪文詠唱と結印は見たことがない。

 生まれ持った魔力量に頼っていた俺とは天地の差がある。

 積み重ねた努力が目の前に思い浮かぶような呪文詠唱と結印だ。

 そのお陰だろうか、学院で魔術を使った時よりも破壊力が大きいし、回復量も回復速度も段違いに大きく速い。


「ピエール、迎え討って」


 フローラ嬢の指揮は的確だが相手が悪すぎる。

 ノームが地の底から攻めてきては、防御も迎撃も上手くできない。

 それにピエールの上級木属性魔術では威力不足だ。

 

「ピエール、私の魔術が整うまで、中級速射で抑えて」


 短く的確で間違えようのない指示だ。

 これなら俺が支援魔術を放つ必要はないかもしれない。

 だが念の為に準備だけはしておかなければいけない。

 

「フローラ御嬢様、無理はされないでください。

 魔力が回復するまで私が時間を稼ぎます」


 イザベルと言う名の護衛がフローラ嬢を心配して声をかけている。

 普段の魔力回復量を知っているからこその言葉なのだろう。

 だがその心配は不要だ、俺にはフローラ嬢の魔力が回復しているのが見える。

 学院での練習とは段違いに早く回復している。

 これならば超級魔術の連射も不可能ではない。

 いや、貴級魔術すら連射できるかもしれない。


「大丈夫よ、イザベラ。

 魔境に来てからとても体調がいいの。

 魔力の回復量もとても多くなっているわ。

 これならもう超級を放つことも問題無いわ。

 さっきも魔術を放った後で吐き気も頭痛もしなかったわ」


 そうか、フローラ嬢の言葉で思いだした。

 なんて勘が悪いのか、自分でも情けなくなるな。

 フローラ嬢は特殊体質なんだ。

 いや、努力を重ねる事で体質が変わったのかもしれない。

 それとも技を極めたと言うべきか。


 フローラ嬢は周囲の魔力を自分の魔力として取り込めるんだ。

 前呪文詠唱と結印、後呪文詠唱と結印で周囲の魔力を利用できている。

 長い年月基本に忠実にたゆまぬ努力を積み重ねた結果だろう。

 これに俺が復活させた魔素吸収術を加えたら、魔境では無敵だろう。

 これだけ努力を重ねた人間には報われて欲しいな。


 俺が秘かに秘伝を教えたらフローラ嬢は幸せになれるだろうか。

 そんな事をしたら不幸になってしまうだろうか。

 ちゃんと段取りを踏んで執行導師になれるまで指導すべきだろうか。

 俺が勝手に考えて答えを出すよりも率直に聞くべきだろうか。

 どうにもフローラ嬢の事が心配で放っておけない。

 もしかしたら俺はフローラ嬢を好きになってしまったのか。


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