第17話:キャンベル王国・エレノア視点

 腹立たしさのあまり魔力が暴走しそうです。

 ウィリアム王太子のような小心で卑怯な奴と一緒にいなければいけない。

 このような拷問に耐えなければいけないなんて、辛すぎます。

 尊敬する努力家のフローラお姉様を追い詰めて追いだした、許し難い愚か者。

 私の幸せな日々を奪った殺しても飽き足らない敵。


「いやあ、よかった、よかった。

 あのような無能な者に将来の王妃など務まる訳がないのだ。

 自分から潔く私の婚約者を辞退してくれて何よりだ。

 これで我が国も安泰だ、なあ、エレノア嬢」


 この言葉を聞くたびに怒りが暴発しそうになります。

 それを我慢するために奥歯が割れそうなくらい歯を食いしばっています。

 自分がフローラお姉様を追い詰めて追いだした事を誤魔化したいのでしょう。

 ですがどれほど言葉を重ねようとも私は誤魔化されたりはしません。

 フローラお姉様に対する仕打ちは絶対に忘れません。


「どうだね、エレノア嬢。

 そろそろはっきりとした関係にならないかい」


 グッワッシャ。


 反射的に殴ってしまいました。

 我慢に我慢を重ねていたモノが吹き飛んでしまいました。

 自分では全く努力せず何もできないくせに、生まれた順番が早かったというだけで、優秀な弟達を押し退けて王太子になった癖に、フローラお姉様に「姉というだけのあのような出来損ないが将来の王妃になるな」と言いがかりをつけた腐れ外道。


 殴って清々しました。

 殴った以上、もうこれ以上我慢する必要はありませんね。

 王家と敵対した以上、もうこの国に残ることはできないですね。

 ただフレイザー公爵家の為には体裁を整えておかないといけません。

 悪いのはウィリアム王太子だと言うはっきりとした印象が必要です。


「いい加減にしてください、ウィリアム王太子。

 私はフレイザー公爵家の令嬢なのですよ。

 普段貴男が浮名を流している身持ちの悪い令嬢や夫人と同列に扱わないで。

 そんなに王侯貴族の常識を破った婚前交渉がしたいのなら、王太子の地位も王族の地位も捨てて好きにすればいいでしょ。

 私はもう貴男のような王侯貴族の常識もわきまえない人とは付き合い切れません。

 この場で婚約を解消させていただきます。

 いいですね、お前達が証人になりなさい」


 私は騒ぎを聞きつけて集まってきた侍女や侍従に言い聞かせました。

 王太子は何か言おうとしていますが、私が殴った事で口がグチャグチャになって話せないようです。


 それに何か言ったとしても王太子の言う事は誰も信じないでしょう。

 信じてもらえないくらい王太子の普段の行いが悪いのです。

 そして私は誰からも信用されるだけの実績を積み重ねています。

 これでフレイザー公爵家が咎められることはないでしょう。

 これで大手を振ってフローラお姉様を追いかけられます。

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