第44話:恋人役・ロイドことローレンス視点

「急な話で悪かったね。

 でもできるだけ早く覚悟を決めてもらった方がシモン君の為だと思ってね」


 シモンには可哀想だが、生贄になってもらわなければいけない。

 とは言っても完全に生贄なると決まったわけではない。

 全てはエレノア嬢の気持ち次第だ。

 好きでもない相手と無理に結婚させるような事はしたくはない。

 できれば愛する人と結婚できるようにしてやりたい。


 問題はエレノア嬢に男性に対する恋愛感情があるかどうかなんだよな。

 フローラ嬢以外には全く興味がないという可能性もある。

 だが、一度は大嫌いなウィリアム王太子との婚約を受け入れているのだ。

 貴族として跡継ぎを産まなければいけないという気持ちはあると思う。

 あるんだよな、ちょっと怖いな。

 エレノア嬢だと全く何も考えていなかった可能性もあるな。


「いったい何事なのですか、ロイド君。

 あまり怖がらせるのは止めてください」


 おっといけない、シモン君の事から意識が外れていた。


「実は絶対にそうなると決まった話ではない。

 相手次第では最初からなかった事になるかもしれない話だ。

 ただそうなった時のために、覚悟だけ決めておいて欲しい」


「そんなに怖がらせないでくれよロイド君。

 そこまで前置きされたらどんな重大な話しなのか怖くなるよ。

 もうはっきりと言ってくれよ」


「そうだな、余り前置きが長いと不安だな。

 だったらはっきりと言ってしまおう。

 シモン君にはエレノア嬢の婚約者候補になってもらう。

 理由はおかしな人間がフレイザー王家の王位を狙って婚約者に成ろうとしたり、馬鹿な国が婚約者を送り込もうとするのを防ぐためだ。

 シモン君ならずっとエレノア嬢の側にいるからね。

 ただ絶対ではないよ、あくまでも可能性があるだけだ。

 エレノア嬢がシモン君を選ばない場合も考えられるからね。

 その時には最初からなかった事にしてくれ」


 悪いな、シモン君。

 君を軽く扱うような真似をしてしまって。

 だが君しかないのだよ、シモン君。

 相手があのエレノア嬢だからね。

 今から全く関係のない男をパーティーメンバーに入れる訳にはいかないのだよ。


「……そんな事をして僕がエレノア嬢に殺されたりしませんか。

 エレノア嬢に嫌われてしまうのがとても怖いです。

 フローラ嬢とエレノア嬢はもちろん、ロイド君にも大きな恩がありますから、ダミーの候補者になるくらい構いませんが、正直怖いです」


 こう見えてシモン君は頭が切れるな。

 自分がダミーだと理解している。

 でも絶対にダミーになるとは限らないだよ。

 フローラ嬢やエレノア嬢がシモン君を好きになるような事があったら、表の力を使ってでも俺が全力で後押しするから。


「サイモン国王陛下とキャサリン王妃殿下とは話がついている。

 問題はエレノア嬢の気持ちの問題だけなんだ。

 それはこれから徐々に確かめる。

 まずはシモン君に受ける気が有るかどうかを確かめたかったんだ。

 絶対に婚約者に成って結婚できるわけじゃないんだ。

 エレノア嬢の気持ち次第では最初からなかった話になるんだ。

 そんな軽い扱いをされてもいいのかを確認したかったんだ」

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