第6話:魔境実習・ロイドことローレンス視点

「じゃあ実習の組み合わせを発表する。

 みんな油断する事なく気を引き締めて参加するんだぞ」


 俺が魔境討伐実習メンバーを発表すると皆が騒ぎ出す。

 ほぼいつも通り、前回と違っているのは俺の班と俺の班から出された子が加わる班だけだから、騒ぎも直ぐにおさまるだろう。


「ロイド君、ありがとう。

 足手纏いの私を引き取ってくれたんだね。

 みんなにも迷惑かけると思うけど、宜しく願いね」


 フローラ嬢が心底申し訳なさそうに話しかけてくる。

 そんな態度をされると自分の汚さが自覚されて嫌になる。

 俺はフローラ嬢を助けたいと思って同じ班に入れた訳じゃない。

 思いっきり下心があって入れたのだ。

 一目惚れして夜も眠れなくなった愛しのフローラ嬢と少しでも一緒にいたい。

 そんな欲望を満たすために、魔力不足を助けるためと担任に言って認めさせた。


「そんな心配はいらないよ。

 フローラ嬢の戦闘侍女は突出した実力者だからね。

 魔力の不足分は十分に補ってくれるよ。

 そんな事を気にするのではなく、まずは魔術士としての実戦力を磨くんだ。

 魔力量の多寡など創意工夫で補うことができるよ。

 自分と仲間の魔力総量と回復量を計算しつつ戦う練習をすればいいんだよ」


 別に嘘や慰めを口にしているわけではない。

 フローラ嬢の正確無比な呪文詠唱と結印ならば、通常必要な魔力よりも少ない魔力で魔術を発動できるはずだ。

 しかも最近では速さを優先するあまり省略する魔術士が多い、事前準備の呪文詠唱と結印や後始末の呪文詠唱と結印まで丁寧かつ正確無比に行っている。


 もう失伝されてしまっている事だが、周りから魔力を吸収して自分の魔力を補充したり魔術の余分な魔力を上乗せしてくれる、とても大切な事だ。

 だが、それを行うには余裕がなければいけない。

 自分や仲間が危機に陥ることがないように、先を読み十分な余裕を創り出さなければ、結局は最後まで呪文を詠唱できずに魔術を発動できなくなる。

 だからこそ省略する流れになってしまったのだ。


「うん、分かった、ロイド君。

 イザベル、何時も助けてもらってごめんね」


「何を仰いますか、フローラ御嬢様。

 私の喜びはフローラ御嬢様の御役に立つことでございます。

 謝っていただく事など全くございません」


 本当に美しくて心が癒される。

 生まれながらに魔力と本性が見えてしまう俺は、ずっと苦しんできた。

 欲望渦巻く皇国の後宮や宮廷で暮らす事は、生き地獄そのものだった。

 皇国に比べれば、比較的素直で心優しい者が多い大陸連合魔術学院でも、全く欲望や競争がないわけじゃなく、嫌なモノを見せつけられ苦しむこともあった。


 そんな中でフローラ嬢の魔力と本性は救いだ。

 絶対にフローラ嬢を手に入れて片時も側から離さない。

 だが、無理無体な事をしてフローラ嬢の魔力と本性を汚すような事があれば、この世でたった一つの宝石を失うことになる。

 細心の注意を払ってフローラ嬢に好かれるようにしなければいけないのだ。

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