第10話:愚直

 大陸連合魔術学院に戻ったロイド達は、互いの健闘を称えあった。

 まずあれだけの魔獣を斃せたことが純粋にうれしかった。

 次に手に入るであろう素材代金がうれしかった。

 魔獣を斃して手に入れた素材は学院が買い取ってくれる。

 それを授業料や生活費に充てることができるのだ。


 魔術探求の総本山といえるのが大陸連合魔術学院だ。

 そこで学ぶための費用は半端な金額ではない。

 庶民の収入から考えれば桁外れに高額なのだ。

 突出した魔力量で授業料を免除される特待生以外は、王侯貴族でも豊かな家か豪商以外にはとても払えない金額だった。


 いや、豊かな王侯貴族であろうと豪商であろうと、授業料は家計に負担をかける。

 だからほとんどの生徒は魔境で魔獣を斃して素材を集める。

 素材のまま売ってもいいし、魔術に必要な道具に加工してから売ってもいい。

 魔術に必要な素材を集めることも魔術に必要な加工品を作るのも、魔術士が学ぶべき事だったから何の問題もなかった。


 超級魔術でも斃せなかった強大な魔獣。

 斃すためには貴級魔術を必要とする魔獣。

 それは貴級魔獣と呼ばれ恐れられている。

 普通の人間、並の狩人や戦士が狩ることができない上級魔獣から素材は高くなる。


 超級となればその高価な上級よりも一桁高くなる。

 貴級ともなれば超級よりも二桁は高価になるのだ。

 ロイドが自分のパーティーに選んだ生徒は貧しい者が多かったから、その喜びは裕福な生徒達の比ではなかった。


「ちょっといいかな」


 ロイドはパーティーメンバーのよろこびが落ち着いたころ、フローラに声をかけてメンバーから離れた場所に移動した。

 もちろん護衛のイザベルは側を離れたりしない。

 絶対に勝てない相手だと分かっていても、命懸けで護る気持ちに違いはない。


 盾になる事でフローラが逃げる時間を稼ぐ。

 イザベルの表情にはその気持ちが現れていた。

 そんなイザベルの決意をロイドとロイドの護衛は好ましく感じていた。

 だがら自分が処罰されかねない方法をイザベルの前でも平気で口にしたのだ。


 その言葉を聞いたフローラは真剣に悩んでいた。

 学院の禁忌を破れば今まで自分が苦しんできた魔力不足が解消されるのだ。

 その誘惑は本気で血の滲む様な努力を重ねてきた人間にしか理解できない。

 十年以上もの月日の努力が無駄になるか実るかの瀬戸際なのだ。


「まじめに勉強します。

 まじめに勉強して執行導師格を目指します。

 担任の先生も、今日一緒に戦った級友も、まじめに勉強しています。

 彼らに恥じるような事はできません。

 ルールを護って秘伝を学べる人間になります」

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