第29話:溺愛3・イザベル視点

「おい、おい、おい、それは幾ら何でも言い過ぎだぞフローラ嬢。

 こんな事を言ったら命懸けで助けに来たエレノア嬢が可哀想だぞ。

 エレノア嬢は俺の知らせを受けて、家も国も捨ててフローラ嬢を助けにきたんだ。

 それをそんな酷い事を口にするなんて、あまりにも人情に欠けるぞ」


 不意にロイド殿が現れました。

 現れたロイド殿がフローラ嬢に説教されます。


「え、あ、でも、私はずっと蔑まれていて。

 現に今も睨まれているし……」


「おい、おい、おい、実の妹の性格くらいちゃんと理解してやれよ。

 どれほど魔力や魔術の才能があっても、照れ症やあがり症はいるんだ。

 大好きなお姉様の前では、顔が強張りひと言もしゃべれなくなる妹もいるんだよ。

 なあ、エレノア嬢」


 その通りですよ、フローラ嬢お嬢様。


「うっ、うっ、うぅえええええええん」


 まさか、ここで大号泣されるのですか、エレノアお嬢様。

 さっきまでのあの勇ましいお姿はどこに行ってしまわれたのです。

 何の躊躇もなく敵の身体を叩き潰す果断さはどこに行ったんですか。

 まさか、私も本当にエレノアお嬢様の姿を見抜けていなかったというのですか。

 この幼子のように泣くお姿が本当にエレノアお嬢様だというのですか。


「え、え、なんで、ごめん、ごめんだからエレノア。

 全部私が悪いから、だからもう泣かないで、エレノア」


「うぅえええええええん、うぅえええええええん。

 だって、だって、お姉様が意地悪言うんだもん。

 エレノア、お姉様の事、大好きだもん。

 エレノア、お姉様と一緒がいいんだもん。

 エレノア、お姉様のお手伝いがしたいんだもん。

 それなのに、それなのに、それなのに、うぅえええええええん」


 エレノアお嬢様がまるで幼子のように泣かれています。

 その姿にフローラお嬢様が何の躊躇いもなくエレノアお嬢様を抱きしめ、背中を優しくたたいたりさすったりしています。

 

「うっぐ、うっぐ、うっぐ、お姉様大好き、お姉様大好き、うぅえええええええん」


 長年溜まりに溜まっていたモノが噴き出したように、恥も外聞もなくエレノアお嬢様が泣きじゃくっています。

 ここまでの姿と言葉を聞けば、フローラお嬢様の誤解も解消されるでしょう。

 それにしても、肉親の前でもこの本性を隠しておられたエレノアお嬢様の秘密を、ロイド殿はどうやって見抜かれたのか、それが怖い。


 人間が必死で隠し抑えている本性を見抜くような魔術があり、それをロイド殿だけが使えるとしたら、脅迫し放題でしょう。

 あらゆる権力を手にする事も不可能ではないでしょう。

 学院の執行導師格という地位も、失伝した魔術を解明してだけではなく、解明した魔術を使って学院を支配しているからかもしれません。

 お嬢様の為には刺し違えてでも殺しておくべきでしょうか。

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