第4話:基礎基本

「凄いな、フローラ嬢。

 基本が完璧にできているじゃないか。

 これなら後は魔力を乗せるだけで上位魔術も発動できるね」


 学級長のロイドが手放しでフローラを褒める。

 級友達も感心した表情をしている。

 だがフローラ本人だけがとても暗い表情をしていた。

 大陸連合魔術学院に来てから一カ月、フローラは級友達に馴染むことができた。


 学級にいる人達は、魑魅魍魎が利を得ようと暗躍する国内社交界で王侯貴族の生き方を学ぶのではなく、魔術の研鑽を目指して集まった人達だった。

 フローラが知る王侯貴族と比較するなら、誰もが気のいい人間だった。

 そんな級友達が悪意を内包させた称賛をするわけがない。

 純粋にフローラの今までの努力を称賛してくれているのだ。

 だがそれでも魔力不足で常に妹の後塵を拝していたフローラには辛い言葉だった。


「だめ、なの、わたし、魔力が少ないの。

 基本ができていても、詠唱や印が完璧でも、魔力が足りなくて発動できないの」


 血を吐くような言葉だった。

 大陸連合魔術学院に入学したのに、肝心の魔力がないのだ。

 何のために入学してきたのか、才能がないなら出ていけ、そんな事を言われるかもしれないと思ってしまい、フローラは不安と哀しみに絶望していた。


「そうか、だったら魔力増強鍛錬をしないといけないね。

 凄く辛く苦しい鍛錬だから、無理にやれなんて言えないけどね。

 まあ無理に魔力増強訓練をしなくても、お金さえあれば魔力を買う事もできる。

 魔力が豊富な下級家臣や領民を側近に抜擢して、魔力を借りる方法もある。

 そんなに深刻にならなくても、やり方は色々あるさ」


「え、あ、その、え、でも、なんで」


 フローラはパニックになっていた。

 魔力不足に関しては自分で調べられる事は全部調べた。

 実家や王国に伝わる魔術の文献には全部目を通して確認した。

 その中に天与の才能である魔力を増強する方法など一つもなかった。

 お金で魔力を買って使うことができるなんて一つも書いてなかった。

 まして魔力の豊富な人から借りることができるなんて初耳だった。

 

「ああ、そうか、フローラ嬢の国は色々と魔術技術を失伝しているんだね」


「おい、おい、おい、ロイド君。

 なに馬鹿な事を言っているんだよ。

 ロイド君が学院の隠し図書を発見するまでは、大陸中で失われていたんだよ。

 今だって学院が許可した人間しか伝授されないの。

 この学級で伝授が許されているのは、隠し図書を発見したロイド君だけだぞ。

 フローラ嬢がどれだけ学びたいと言ったって、そう簡単に許可は出ないよ。

 もし許可が出るようなら、級友全員が涙流して悔しがるよ」


 フローラ嬢はハンマーで頭を強打させられたように衝撃を受けていた。

 嘘や冗談ではなく、本当に乏しい魔力を補う方法があるのだ。

 だとしたらどんな代償を使払ってでも手に入れたい、そう思うのが普通だった。

 その為にはどうすればいいのか、それを教えてくれるのはロイドしかいなかった。

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