第41話:操縦法・シモン視点

 食後の憩いの時間であるはずの学院の食堂が血の惨劇を呈している。

 恐れを知らない馬鹿貴族がエレノア嬢の逆鱗に触れた。

 下顎の骨が粉砕されたのだろう。

 血がパンパンに溜まって熟しきった柿のようになっている。

 ピクピクと身体が痙攣しているから死んではいないと思う。

 エレノア嬢も学院生を殺すのは不味いと分かっているのだろう。

 ギリギリ死なない程度には加減したようだ。


 半死半生の馬鹿貴族も可哀想と言えば可哀想だ。

 ロイド君が教えてくれた情報によれば、母国から無理難題を言われたそうだ。

 自国の王子をフローラ嬢の王配に送り込めと言われたそうだが、無理だろ。

 僕から見てもエレノア嬢のフローラ嬢に対する執着は病的だ。

 フローラ嬢も男性と恋愛をする気が全くないように思える。

 色々と耳にしている噂からはそれも仕方がないと思う。


 どうしても後継者が欲しいのなら、国王陛下が外に子供を作ればいい。

 その子供を王妃殿下の産んだ子供だと言い張れば済むことだ。

 直ぐに偽装だとバレるだろうが、フローラ嬢とエレノア嬢が問題にしなければ他国が何を言っても始まらない。

 ウィリアムという馬鹿王子が騒いだら今度こそ焼死して終わりだろう。


 さっきからエレノア嬢の顔が百面相のようにころころと変わる。

 イザベル女伯爵以外があんな事を口にしたらその場で焼死だな。

 それにしてもイザベル女伯爵は度胸があるな。

 まあ、忠誠心と度胸がなければフローラ嬢の護衛には選ばれていないよな。

 それに、エレノア嬢の性格も心得ているのだろう。

 口にしても大丈夫なギリギリの所をわきまえているのだろう。


「……フローラお嬢様がお生みになったお子様を」


 これは流石に命知らずな言葉じゃないか。

 フローラ嬢の生む子供が楽しみだなんて怖いもの知らずな事を口にしてしまった。

 いくら何でもその言葉は禁句だっろう、今度こそ殺されるんじゃないか。

 さっきからフローラ嬢の顔色が真っ青になったり真っ赤になったり大変だぞ。

 火炎魔術に巻き込まれて焼死するのは絶対に嫌だからな。


「お姉様の子供、お姉様の子供、お姉様の子供。

 珠の様に可愛いお姉様の子供抱く」

 

 おい、おい、おい、おい、子供は大丈夫なのかよ。

 男を近づけないで子供なんて生めないぞ。

 まさか子供の作り方も知らないなんて言わないよな。

 知ってて大丈夫だという事は、フローラ嬢が結婚する事を許すのか。

 男が近づくのを許すのか、信じられないな。

 あんなにフローラ嬢に執着していたエレノア嬢だぞ。


 それにしてもイザベル女伯爵は本当に凄いな。

 エレノア嬢を操る方法を完璧に会得しているのか。

 これではフレイザー王国を陰で操る事も簡単だな。

 こんな事が他国に知られたらどの国もイザベル女伯爵を籠絡しようとするだろう。

 まさかと思うが僕以外にこの事に気がついた人間がいないだろうな。

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