幼馴染は、一番分かってる

「紬さん、準備は良いですか?」


「もちろん。痛い目を見るのは、リリアナさんの方ですよ」


「あはははは」


「うふふふふ」


 ショッピングモールでの買い物から、数時間後。私たち二人は、今私の家の前にいる。

 家の中に、結人がいるのは知っているので、後は玄関を開けるだけだ。

 二人で、誕生日プレゼントを大事に抱え、覚悟を決めた。


 ピンポーン。


 私は、呼び鈴を鳴らす。


「別に紬さんの家でもあるんですから、鳴らさないで入れば良いのでは?」


「別にいいでしょ! 心の準備の時間ちょいだいよ」


「別にそんな緊張しなくても良いじゃないですか。勝つ気持ちなんでしょう?」


「だとしても! 多少は緊張するのよ」


「まずは、ユートに謝ったほうがいいと思いますよ」


「うっ」


 その通りだった。

 ここ最近、私は少々傲慢で自分勝手な行動を取っていた。それで結人を傷つけてしまったのは事実。

 謝るしかない。


 リリアナさんと、軽い言い合いをしていると、ガチャリと扉が開く。


「あ、結人……最近は色々ご迷惑をかけてほんとに……」


「紬ちゃん、あの」


「へ?」


 私が頭を下げて、ここ最近の行動への懺悔をしていると、何故か女の子の声が聞こえた。

 顔をあげる。

 そこには、私の見知った顔が。


「……紬ちゃん、久しぶり。といっても、数週間ぶりだね」


「奈緒ちゃん……」


 秋元奈緒が、顔を覗かせていた。

 しかも何故か、サイズ違いのTシャツを一枚着て、髪をそこそこ濡らした状態。

 まるでお風呂上がり。


「紬さん、誰ですかこの女の人」


 リリアナさんは、ポカンとしながら首をかしげる。


「あはははは……」


 私は、笑うしかなかった。


    ◇


「……それでね、お父さんが偶然こっちに用事があるって言うから一緒に来たんだ」


「そ、そうなんだ。……なんで言ってくれなかったの?」


「驚かせようと思って! あ、結人くんには言ってたよ」


「誰ですかこの人」


「あれ、結人は?」


「結人くんは、今買い物行ってる」


「紬さん、だから」


「いやあ、奈緒ちゃんにこんなすぐに会えるなんて」


「うん、私もびっくり」

 

「なんでワタシを無視するんですか!?!?」


 なんだよもう……うるさいなぁ。

 

「あ、奈緒ちゃん紹介するね。この人は、転校生のリリアナさん」


「どうも、リリアナと言います。ユートの幼馴染です」


「こんにちわリリアナさん。私は、秋元奈緒です、ちょうど前年度に転校しちゃったので、入れ違いだね」


 よろしくねと、二人はニコッと笑う。

 一応、リリアナさんに釘刺しておこう。


「リリアナさんは、"元"幼馴染でしょ?」


「あら、ワタシの方が早いんですが」


「だから、早さなんて関係ないって」


「長さも関係ないんですよ」


「……おお、バチバチだね。結人くんも隅に置かないなぁ」


 リリアナと私が言い合い、それを奈緒ちゃんが眺めているという謎構図。


「というか、なんで奈緒ちゃん下着姿?? その服、結人のじゃん」


「えっと……その」


「もしかして奈緒さんとユートは……」


「違う違う! 車が水溜まり踏んで私に思いきりかかっただけだから!」


 すると、


「ただいま……って、リリアナと……紬も居るのか……」


 結人が帰ってきた。手には沢山の荷物。

 そして何故か嫌そうな顔をした。


「ちょっと結人? なんで今一瞬嫌そうな顔したの!?」


「いや別にしてないよ!」


 私が問い詰めると、結人は慌てて否定する。

 逆にそれが怪しい。


「絶対してた! ね、奈緒ちゃんも見たでしょう?」


「うーん、見てなかった」


「リリアナさんは!?」


「ええ、バッチリ見ましたよ。紬さんを見て嫌そうな顔してました」


「別に私見てじゃないでしょ」


 ね? と、結人の方をチラッと見ると「はぁ……」とため息をついていた。

 え……嘘。


 私が硬直して、目が潤んできた時、奈緒ちゃんが「そういえば!」と手を叩いた。


「リリアナさんと紬ちゃん、今日はお二人で何処か行ってきたの?」


「え? ……あ、うん」


「もうこのさい、さっさと渡しましょうかね」


 と、リリアナさんはカバンから包みを取り出した。


「ユート、これお誕生日プレゼントです」


「え!? 誕生日プレゼント? 俺に?」


「ハイ、今日紬さんと一緒に買いに行ったんですよ」


「そうだったんだな……あ、俺リリアナにプレゼント用意してないや」


「別にワタシは気持ちだけで充分ですよ」


「……開けて、良いか?」


「もちろん」


 結人が包みを開けると、中には腕時計が入っていた。


「そんなにお高いものじゃないですけど、ユートが腕時計欲しいって言ってたので」


「マジか! 助かる! 最近壊れちゃってさ」


 結人は嬉しそうに時計を見つめる。

 その前に、待って欲しい。


「え、まってリリアナさん。……結人に欲しいもの聞いてたの?」


 これ、プレゼント勝負って話だったよね?

 ズルくない?

 リリアナさんは、ニヤリを笑う。


「別に、欲しいものリサーチがダメとはひと言も言ってませんが?」


「なっ」


 これはひどい。

 え、そんなの勝ち目ないじゃん……。


「……あ、ユート。紬さんは紬さんでプレゼント用意したんですよ」


「え、そうなのか?」


「え、ええ……」


 私は、鞄の中のプレゼントを強く握りしめる。

 二時間という時間は、あまりに短すぎた。

 あれもダメ、これもダメと色々考えすぎて、空回りした。

 ……本当に、これで良いのだろうか。


「あー、やっぱり今日じゃなくて」


「紬ちゃん」


 奈緒ちゃんが、私の背中に手を当てる。


「プレゼントは、気持ちが大事。でしょ?」


 奈緒ちゃんは、私の首のネックレスに触れる。


 それは、死ぬほどセンスのカケラも存在しない星型の飾りのネックレス。

 昔、結人がお小遣いをはたいてくれたもの。


 私は、毎回このネックレスは服と合わない……とか、恥ずかしいと思いながらも、なんだかんだ気に入っているのだ。


「そうだね。そうだよ、ただ幼馴染にあげるだけじゃん」


 気持ちのこもったプレゼントなら、良いんだよ。


「はい、結人。……誕生日、おめでとう」


 私は、決死の思いでプレゼントを渡した。

 そして結人は、プレゼントの中身を見て固まった。


「…………え」


「どれどれ……って紬ちゃん???」


「ワタシにも見せてくださ……うわぁ」


「「「気持ちが重い」」」


「え!?」


 三人になにか哀れな目で見られ、私は膝から崩れ落ちる。

 ……は、流石にダメだったかなぁ。

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