平穏な日常で幼馴染は光り輝く

 あれから数日。

 俺の周囲は、この数ヶ月と比べて驚くことに平穏になっていた。

 朝起きて学校へ行き授業を受け、お昼を食べ、また授業を受けその後少し寄り道をして家に帰る。


 ゆっくりと時間は流れていった。

 そして、あっという間に三月。

 二年生が、終わりを告げる。


「では皆さん。次は最高学年になるんですから、その自覚を持ってですね……」


 HRでの先生のありがたーいお言葉を聞きながら、俺はうたた寝をしていた。

 その時、ブルルルとスマホが揺れる。

 差出人は、紬だった。

 紬の方をチラッと見ると、スマホを見なさいとジェスチャーで伝えてくる。

 あと少しで授業終わるんだし別に今すぐじゃなくても。

 そんな急用なのか?


 俺はLINEを開く。


「授業終わったら、買い物行くから一緒に来なさい」


 うん、授業終わってからで良かったな。


「おい石川。スマホしまえ」


「あ、すみません」


 ……なんで最終日に怒られて終わらないといけないんだろうか。


    ◇


「さあ結人! 奈緒ちゃんお別れサプライズパーティーの買い物へ行くわよ!」


 放課後。

 すぐ紬と教室をでた俺は、ハイテンションな紬に連れられスーパーに来ていた。


「結人、なんかテンション低くない? 行くわよ!」


「ああ、わかってるよ」


「そこは、『おー!』でしょ」


「めんどくさ」


「良いから早く!」


「……おー」


「声が小さい、やり直し」


「おー!」


「それでよし」


 店先でこんなことやらせんな恥ずかしい。周りに見られてクスクス笑われてるし……。


 道中聞いた話によると、今日の夜に秋元のお別れ会を家で開くらしい。


「それで? 今日の夜は何にするんだ?」


「さあ? あ、でもお母さんに買ってきて欲しいもの教えてもらってるからそれ買っていきましょう。……どれどれ。これは、おそらく揚げ物はありそうなラインナップ」


「おー、揚げ物かぁ。良いね」


「後はお菓子とジュースも買っていきましょ。ジュース選んできて」


「りょうかい」


 俺は紬と別れ、一人飲み物コーナーへ向かう。

 さて。何を買っていくのが良いのだろうか。

 お茶は家にあるのでそれ以外にジュースを数本、そのラインナップこそ腕の見せ所。

 紬はリンゴジュースが好きなので、まずはリンゴジュースを選ぶ。

 後は炭酸か……? でも、炭酸はたまに苦手な人もいるしなぁ。


「秋元は何が良いんだろうなぁ」


「私はジンジャーが好きですよ」


「そうなのか。じゃあ…………は?」


 慌てて振り返る。

 そこには、秋元がいた。


「あ、でもサイダーもシュワシュワしてて好きです」


「……なんでいるの?」


 あれれ? おっかしいぞー?

 紬は秋元には、家に呼んで夜ご飯を食べていけることだけ伝えたと言っていた。


「なんでって……私も買い物に来たんですよ」


「なんで」


「いや……人様の家に遊びにいくのに、お菓子を買わないのは失礼かなと思いまして」


「あー、なるほどな」


「結人さんは、夕飯の買い出しですか?」


「ああ、まあそんな所」


「紬ちゃんと一緒ですか?」


「そうだよ。紬は頼まれたものを買ってる」


「そうですか」


「うん」


「…………」


「…………」


 沈黙。

 いつも、秋元が会話をつなげてくれるので、それがないと微妙な間が空いてしまう。

 俺は、その空気に耐えられずジュースを取ると「それじゃあ、また後で」と離れようとする。


 が、秋元が「そういえば」と口を開いた。


「紬ちゃん、最近とても優しいでしょ」


「?」


 秋元の発言の意図を掴めずハテナを浮かべる。


「元気で明るく、優しい幼馴染。その理想みたいな子よね」


「横暴で自分勝手の間違いじゃないか?」


「だとしても。……とても、良い子よね」


「そうだな」


「ほんと、理想的。……怪しいくらいにね」


「秋元は……何が言いたいんだ?」


 話題の核がまだ見えない。

 

「彼女は……」


「あ、奈緒ちゃんがいる! なんで!?」


 秋元が言い終わる前に、背後から声が聞こえた。


「あ、紬ちゃん」


 カゴいっぱいに買うものを詰め込んだ紬が、驚いた様子でこちらを見ている。


「あれ!? もしかしてサプライズお別れ会のことバレてる!?」


「あっ」


 こいつ自分でやりやがった。


「え? お別れ会……?」


「えっ……その反応」


 自分の過ちに気付いたのか、紬は慌てて口を抑える。

 時はもうすでに遅し。

 別にお別れ会ということがバレていたわけではないのに、自ら漏らしてしまった。


 秋元は全てを理解したのか、「へーお別れ会かぁ」と口角を上げた。


「紬ちゃん、おっちょこちょいだね」


「あー……やらかした」


「馬鹿じゃないのか」


「どれもこれも結人のせいだから」


「なんで!?」


 結局、サプライズ要素の消えてしまった純粋なお別れ会となってしまった。

 家へと帰ってる途中。


「別に、お別れ会なんてことしなくてもいいのに」


「私がしたいのー! 奈緒ちゃんと、当分会えなくなる前にね」


「そうだね。…………ありがと」


 秋元の、隠しきれない喜びを見れば、サプライズ要素なんてどちらでも良かったと認識した。

 

 それにしても。

 秋元は、さっき何を言いたかったのだろうか。


「彼女は……」


 あの言葉の続き。

 秋元が感じた紬への違和感。


「ほんと理想的。……怪しいくらいにね」


 もしかして……。

 秋元は……。

 

「結人! ついたよ!」


「え? ……あ、ほんとだ」


 気づけば、家の前だった。


「何ぼーっとしてるの?」


「ごめん」


「こっからはちゃんと集中してよ? 最高の会にするんだから」


「ささ、奈緒ちゃんどうぞどうぞ」


「うん、お邪魔します」


 紬と秋元は家へと入っていく。

 俺もまずは、お別れ会のことを考えよう。



 ……そしてその後。俺は、紬と一度向き合わないといけない。

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