幼馴染との夜は長くて

俺たちは、冷蔵庫に入った食材から適当に夕飯を食べると寝る準備を始めた。


「リリアナ、この家の布団は?」


「ベッドひとつだけです」


「よし分かった、俺はソファで寝るわ」


 外の天気も悪く、少々肌寒いだろうが、仕方あるまい。


「一緒に寝ても良いんですよ?」


「それは断る」


「でも寒くないですか?」


「布団がないんだから仕方ない」


「そうですか、分かりました」


 リリアナはあっさりと引き下がり、ベッドのある部屋へと向かった。


 それから数時間後。

 深夜。天候はさらに悪化して、ピカッと光るとカミナリの音が聞こえる。

 ゴロゴロゴロゴロ……。


 明日、山降りれるのかこれ。

 ソファで横になりながら、俺がそんなことを考えていると、リビングの扉が開く音が聞こえる。


「ユート……起きてますか?」


 リリアナが、扉の奥から顔を出してこちらを見ている。


「起きてるぞ、どうした?」


「ユート……」


「どうした」


「ユート……」


「だから、どうしたんだって」


 リリアナは、扉から離れようとしない。

 一体どうしたのだろうか。

 俺はソファから立ち上がりリリアナに近づくと、リリアナは半分涙目になっていた。

 何故。


「……リリアナ、大丈夫か?」


「……レ。」


「はい?」


「トイレ……ついてきて欲しい」


「……はい?」


    ◇


「ごめん……ほんと、ワタシカミナリが怖いんですダメです1人じゃ行けませんでした」


 数分後。俺はリリアナのトイレが終わるのを扉の前で待った。

 そしてリビングへ戻ろうとしたが、リリアナが腕を離そうとしない。


「リリアナ、そろそろ離れてくれないか?」


「……無理です。ワタシ、もう一人じゃ寝れない。一緒に寝てくださいお願いします」


「いやそれは……」


「ワタシ1人、怖いです。……一生のお願いです。お願いです」


 声と足を震えさせ、縋るようにお願いしてくるリリアナ。

 ……まったく。


「分かったよ、流石にこのまま1人で寝かせるのは可哀想だ」


「一生の恩に着ります」


 そして、俺とリリアナはベッドへ。布団へ入る。

 リリアナと同じベッドの中。


「これでいいか?」


「……あと、お願いが」


「なんだ」


「ぎゅってして欲しいです」


「はい?」


 こいつは何を言ってるんだ。


「人は、ハグされると緊張や恐怖が和らぐんです、お願いします」


「でもな……」


「お願いしますよぉ」


 すると、リリアナが俺はと体を寄せてきて腕を後ろに回した。

 ベッドの中で、リリアナと密着し抱き合う状態になる。


「ユートも腕回して欲しい、です」


「……えぇ」


「お願いします」


「……あー、もう分かったよ」


 そして、俺はゆっくりリリアナの後ろへ腕を回し、リリアナを抱き寄せる。


「ひゃっ」


 リリアナの小さな声が漏れた。

 心拍数が上がる。リリアナの呼吸音がすぐそこで聞こえる。

 布団の中、気温は上昇。

 リリアナの、甘い香り。

 ……あ、やばいクラクラする。理性が。


「……ユート、ドキドキしてるんですか?」


「誰だって、この状況はドキっとするだろ」


 前に奈緒と同じ布団で寝た日のことを思い出す。あの日は、朝に紬に見つかりかなり気まずい日々を過ごした。


「……ユートも、ワタシにドキドキするんですね」


「当たり前だろ。リリアナは、自分の容姿を自覚しなよ」


 リリアナは、誰がどう見ても美少女。街では誰もが振り返り、ナンパ野郎もその美しさに手を出せないほどの高嶺の花。

 それが、リリアナなのだ。

 ゴロゴロゴロゴロ。

 雷が、一層強くなった。


「うわぁぁぁあ!」


 リリアナは、さらに抱き締める力を強くする。

 ぎゅっと抱きしめられる。

 さらに心拍数は上昇。


「……なあ、リリアナ。このまま寝ないとダメ?」


「……ダメです。そうしないとワタシはほんと泣きます。すると、ユートは女の子をベッドで泣かせた男として名を馳せます」


「うわ絶対やだなぁ」


 最初は良かったが、次第に減る会話。それに合わせて、いやでもリリアナを意識してしまう。

 ……このまま強制された通りにいけば、リリアナと結婚かぁ。


 ダメだ。少し良いなと思ってしまった自分を心の中の拳で殴った。


「ユート、おやすみなさい」


 胸の中で、リリアナが小さくそう言った。

 何故か、その一言の破壊力は抜群で、俺の心臓は張り裂けそうなほど飛び上がる。


 今日は、本当に寝れそうにない。

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私たち、幼馴染のままで本当に良いの? 永戸 望 @AIDdesuyo

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