許嫁とのハネムーン?

「ユート! ユート!」


「……ん」


「……きてください、おき……」


「…………あと少し」


「起きないとキスします」


「ん?」


 俺は危ない発言が聞こえ目を覚ます。

 そこには、目を瞑り今すぐに顔を近づけようとするリリアナの姿。


「おお!? お前、何やってんだ」


「あ、起きましたね。おはようございます」


「ああ、おはよう?」


 あれ、俺はどうなったんだ?

 授業中、俺は眠気に襲われ意識を失った。

 

 そして、ここは保健室かと思ったが、どこかの家のリビングのようだ。


「ここは?」


「ユート、お水飲みますか? 喉渇いたでしょう」


「おいここって」


 外を見ると、そこに広がるは暗闇。小さな湖に森。鳥は鳴き、人工物の音など微塵の聞こえない場所。


「ここ、どこだよ」


 理解が追いつかない。

 俺のその呟きに、リリアナは申し訳なさそうに返す。


「……森の中です」


「は?」


「付け加えるとワタシの家の別荘です」


「は?」


 意味が、分からなかった。

 俺は眠気に襲われ意識を失った。

 そうして気づけばリリアナの別荘?


「ユートの疑問は、そこの机の上に」


 リリアナに言われた通り、机の上を見る。

 そこには、一枚の紙が置いてあり、文字が書いてある。

 無駄に達筆なその文字は、親父のものだった。


『結人、おはよう。急な事で驚いているだろうが、状況を飲み込むんだ。ここはリリアナの家の別荘だ。近くの町からは車で1時間の森の奥地だ。ここで、結人とリリアナには1週間ほど共同生活を送ってもらう。そのための食材は用意してある。周りに人が居ないから、何をしても気付かれないし、バレもしない。だから、近い未来結婚する若き二人が何をしようが大人には分からないよ。何かあればそこに置いてある電話を使えば僕には連絡取れるから。それじゃあ、健闘を祈る』


 手紙の内容を読んで、俺は硬直する。


「いやいや」


 そんな、バカな。

 こんな事、本当にあり得るのか?

 こんなの監禁と変わらないじゃないか。

 だいたい、俺が眠らなきゃ……。


「おいリリアナ」


「はい?」


「あの弁当、何か変なもの入れてたか?」


 例えば、睡眠導入剤とか。


「…………」


「沈黙は肯定と捉えるが」


「ユートのパパがあのお弁当用意したんですよ! こうすれば、ユートは胃袋を掴まれるって! ワタシだってこんな強硬策出るなんて知らなかった!」


「言い訳か?」


「本当に知らなかったんですってば! 知ってたら、絶対止めますよ。うん、絶対」


 どうやら、リリアナも知らなかったらしい。まあそれが本当か嘘かわからないが、この落ち込みっぷりからして本当に知らなかったのだろう。


 それにしても、親父はやりすぎだ。

 同意なく、こんな所に監禁するなんて……。


「山を降りるぞ。早く、この場所から」


「夜道は危険です、今日はここに泊まるしかありません」


 外は真っ暗闇。確かに、この状態で山に入るのは危険すぎる。


「あ、そういえば俺のスマホ」


「ここにはないですよ」


「電話は?」


「この、ユートのパパに繋がるものだけです」


「マジでただの監禁じゃねえか……」

 

 あの親父はこんな事して、本当に俺とリリアナが発展すると思ってるのか?

 リリアナの方を見ると、リリアナは俺の方をチラチラを確認しながら下を向いている。


「……リリアナ、どうした」


「い、いえなにも!」


「何か言いたい事あるなら、言え」


「……ユート、ワタシのこと嫌いになりましたか?」


 リリアナは、至って単純明快な質問を投げかけてくる。


「こうやって、ユートの意思に反することばかり。そうやって強制するワタシは、嫌われても仕方ないです」


「でも、リリアナは知らなかったんだろ?」


「だとしても、ワタシは同罪ですよ。……本当に、ごめんなさい」


 深々と、震えた声で謝るリリアナ。

 俺は、リリアナに顔を上げさせると、ペチンとデコピンをした。


「いたっ。なんですかユート!」


「この怒りをぶつけただけだ」


「じゃあ、やっぱりワタシのことを」


「勘違いするな。こんな程度じゃ、嫌いにならないよ」


「え? ……なんで」


「確かに、やり過ぎだと思うよ。だが、これはどう見ても親父が悪い。そんな泣きそうになりながら謝るリリアナを見ても、嫌いにはなれないぞ」


「そ、そうですか」


「でも、怒ってはいるから、デコピンしたんだ。もうデコピンされたくなければ、もう謝るな。俺はもう気が済んだよ」


 ここでリリアナに怒っても何も解決にはならない。ならば、円滑に物事を進めた方が得策だ。

 こんな、フィクションでしかないような出来事に、少し浮き足立ってしまった俺もいるしな。


「ユートは、優しすぎます」


「怒るのも、疲れるんだよ」


「その優しさで、ワタシとケッコンしません?」


「それは断る」


「あちゃー」


 リリアナと二人でクスッと笑う。

 少しずつ、緊張の糸は解けてきて、俺も冷静になってきた。


「ということで、この話は終わりだ。期限までここに居ないとダメなんだろ? なら、その間楽しもうぜ」


「楽しむ……? よ、夜はお楽しみでしたね! の楽しむですか!?」


「違うわ」


「ワタシ、準備は出来てるので安心してください」


「やめろそういうこと言うな!」


 羞恥心はどこだ。


「まずお腹空いたな。食糧は冷蔵庫か?」


「まずはご飯を食べてセイリョクをつけるんですね?」


「その口一回塞ごうか」


「アメリカは、セイに奔放なのです日本より」


「そう言う時だけアメリカ人アピールするんだな。郷に入れば郷に従えだ」


「ここには他に誰も居ません。二人だけ。つまり、半分の人が常識と思っていれば、それは常識になるのでは?」


「やべえ思想だよ」


 ……なんかもう疲れてきた。

 リリアナとの、長い1週間が始まる。

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