幼馴染が、幼馴染になるまで

 ここで、私と結人の過去の話をしよう。


 出会いは、小学生の頃まで遡る。

 隣に引っ越してきた私。

 しかし、結人とはすぐに打ち解けるわけではなかった。


 ただ、隣に住んでいるだけ。

 それだけの関係。


 私は、静かな子だった。

 いつも気配を消して机につき、本を読んでいるような子で、クラスでも一人だった。

 それに比べて結人は、明るくクラスの中心で遊ぶような子だった。

 今とは、まるで逆。


「ねえ、紬ちゃん。何読んでるの〜?」


 クラスの女の子が1人、私に話しかけてくる。


「え? ……えっと。シンデレラ、知ってる?」


「うん! 知ってるよ! 私も大好き!」


「良いよね、シンデレラ」


「2人とも、何話してるの〜?」


 そこに、1人割り込んでくる女の子。黒色の服で謎の英文字の書かれたシャツ、赤いプリーツスカート。

 クラスで1番目立つ中心人物の少女、奏。

 彼女はニコニコと笑顔で話しかける。


「あ、奏ちゃん。あのね、紬ちゃんの読んでるの本の話を」


「へー、何の本読んでるの〜?」


「……し、シンデレラ」


「あー! シンデレラねー。良いよねシンデレラ」


「だよね! 良いよね!」


「え、でもさ。……シンデレラとか、そんなのまだ読んでるの?」


「え?」


 私は、何を言われたか一瞬分からずポカンとした。

 そんな紬に、奏ちゃんは続ける。


「小学生にもなって、まだお姫様なんて憧れてるの?w もしかして、こんな根暗な私でもキラキラした王子様に会えるかも! みたいに期待してるの?」


「奏ちゃん! 言い過ぎだよ」


「は? 私は、紬ちゃんに現実を見せてあげてるだけだよ? 私は、ただ正しいことをしてるだけ。こういう根暗がクラスにいるだけでみんな困るんだよね〜」


「…………」


 私は、俯いて何も返せない。


「あれー? 紬ちゃん、どうしちゃったの? ねえ、私の声届いてる?」


「…………うぅ」


「えー、ちょっと泣かないでよ〜。まるで私が悪者みたいじゃんw」


「………………なさい」


「うん?」


「ごめんなさい」


「何で謝るの、別に謝ることないじゃん。……ほらそうやって私を悪者にする。泣けば良いって楽ね〜」


 私は、何も言い返さずポロポロと涙をこぼす。

「奏ちゃん言い過ぎ」と言われても、「は? こいつが悪いじゃん」と奏は非を認めない。


 と、その時。


「先生、あそこです」


 教室の入り口から、声が聞こえる。

 顔をあげると、先生がいた。


「紬さん大丈夫!? ……奏さんが泣かせたの?」


「せ、先生!? 私じゃないですよぉ〜、紬ちゃんに話しかけたらなんか泣いちゃって〜」


「紬さん、大丈夫?」


 先生の言葉に私はこくりと頷く。


「奏さん、紬さん、後でしっかりお話し聞きますからね!」


 先生のその言葉に、奏ちゃんは「はーい」と心のこもっていない返事を返して、先生に聞こえない程度に舌打ちをしていた。


 ……そういえば、先生を誰かが連れてきてくれたようだった。

 いったい、誰だったのだろうか。


   ◇


 放課後。


「紬ちゃん、さっきはごめんね?」


 奏ちゃんが、私の元へ謝りにくる。


「別に気にしてないし、大丈夫」


「ほんと? ……でも、私の気が済まないからさ。お詫びさせて?」


「別にいいよ」


「じゃ、体育館裏ね」


 ニコっと笑う奏ちゃん。

 ……嫌な予感はしたけれど、行くしかなかった


 体育館裏へ着くと、奏ちゃんとその取り巻き二人が私を待っていた。


「あ、ちゃんと来てくれたんだぁ〜」


 と、奏ちゃんは甘い声を出す。

 なんだが、不気味だった。


「……それで、お詫びって」


「ねえ紬ちゃん。そこで土下座しろよ」


「えっ……?」


 さっきまでの甘い声なんて嘘のように、彼女の本性が剥き出しになる。

 私を見下すその瞳。


「紬ちゃんが勝手に泣いたせいで、私が怒られたんだけど?」


「奏ちゃん可哀想じゃん」


「紬ちゃんのせいだよ?」


「え? ちょっと」


「だから、ここで詫びろよ。ほら、誠意見せてよ」


 私は、訳が分からなかった。

 奏ちゃんと取り巻き2人はジリジリと私に距離を詰め、壁へと追いやる。


「紬ちゃんのせいだよ」


「あんたが根暗なのが悪い」


「……なんでッ」


 私は、ついにポロポロと涙が溢れる。

 何で私はこんなことにならなきゃ行けないのだろう。

 なんでこんな目に遭わないといけないのだろうか。


「またそうやって泣く」


「泣けば誰か助けてくれると思ってるの?」


「私たち悪者にしないでよ」


「……なんで、私にそんなに酷いことするの」


 なんで、私なのだろう。そんなに気に触ることしたかな。

 私が泣きながら聞くと、奏ちゃんはハッと笑って答えた。


「なんでって。…………あんたが、結人君と仲良いからでしょ?」


「へ?」


 予想外の名前が出てきて、私は固まる。

 結人君……って。あの結人君?

(この頃の私は、結人との関わりはほとんどなかった。だからこそ、私は困惑した)


「とぼけないで。紬ちゃんって結人君と実は仲良いんでしょ?」


「そ、そんなことない」


「嘘つき。お隣さんなんでしょ?」


「そ、そうだけど」


 だからって、関わりがある訳じゃない。


「一緒に学校向かってるの見たって言ってた」


「親同士が仲良いんだって?」


「紬ちゃんのくせに」


 心当たりのない言葉をかけられ、私は理解する。

 ……ああ、そっか。

 私は、結人とかいう男の子の隣に住んでただけでこんな目に遭うのか。


「奏ちゃんは……その、結人君が好きなの?」


「だったら何?」


「いたッ」


 蹴りを入れられた。


「あんたさえいなければ」


 その時。


「奏ちゃーん!」


 少し遠くから誰かの声が聞こえる。

 その声に、奏ちゃんは肩を震わせた。

 走り、駆け寄ってくる声の主。

 その声の主は、結人だった。


「……あ、結人君、どうしたの♡」


 すぐ猫をかぶる奏ちゃん。


「奏ちゃん、良かった。帰ってなかったんだ」


「う、うん! どうしたの?」


「この後、時間ある……?」


「もちろん!! ……それで?」 


 えへへと明らかにデレる奏ちゃんの姿。先ほどまでの覇気は嘘のよう。


「実は先生に頼まれものしちゃってさ。……良かったら、手伝って欲しいんだけど」


「いいよ! 手伝うよ!」


「ありがとう!」


「そこの2人にも手伝って欲しいんだ」


「うんいいよ」


「もちろんだよ」


「じゃあ、先に行ってて欲しい」


「分かった! 先に行ってるね!」


 そして、奏ちゃんと取り巻き2人は体育館裏を後にする。

 その背中を見送った後、結人君は私の方は振り返る。


「紬ちゃん、大丈夫だった?」


「え?」


「怪我とか、してない?」


 心配そうに、結人君は私に近づこうとする。

 しかし、私は……。


「……やめて」


「え?」


「私に、関わらないで。もう二度と、お節介しないで」


 私がこうなったのは、結人君のせいだ。

 結人君が、私にこうやって構うから。


 そして私は、結人君を残して学校を後にした。

 ……結人君なんて、大嫌いだ。


    ◇


 過去を思い出して私は思う。


「よくこの状態から、今の関係になったなぁ」


 と。

 大嫌いだった結人と、なぜか幼馴染となり、今の一緒にいる。

 ほんと、不思議だ。

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