「家族ってこと?」

だから、幼馴染とは幼馴染をやめる

「おい、紬。起きろ」


「……あ、あと数十分」


「チェックアウト近づいてるんだよ!」


 バサッと、結人に布団を取られて私は目を覚ます。

 あれ……ここは。


「……あ、そっか。結人と泊まったのか」


 いつの間にか、寝ていたらしい。

 チュンチュンとスズメが外では鳴き、日差しが差し込む。

 私はうーんと背伸びをし、大きな欠伸をした。

 身体が凄くだるい。


「紬、早く準備しろよ。時間過ぎたらお金増えるんだから」


「ああ、ごめん」


 私は、ゆっくりとベッドから出て立ち上がる。

 そしてそのまま洗面台へ。


「…………は?」


 鏡に映る私は、何故かかなり、服の崩れた状態になっていた。

 今にも、ずり落ちそう。


 ホテル……はだけた服……だるい……。


「ゆ、結人!? な、な何もなかったよね!? 私が知らないうちに何もないよね!?」


 昨晩は疲れていて記憶が曖昧。

 何か嫌な予感がして結人に聞くと、結人はポカンとしながら、


「えっと……紬、お前って意外と積極的なんだな」


「え゛」


「なんてな、冗談だよ。安心しろ、何もなかったよ。……服がアレなのは、お前の寝相が悪いだけだ」


「……あ、そうなんだ良かった」


 一瞬焦った……。

 心臓に悪い冗談はやめてほしい。

 そして私は、手の届くところにあったタオルを掴むと、思い切り結人へと投げつけた。


「いた……くないけど、なんだよ」


「心臓に悪い冗談のバツだよ」


    ◇


「……なんか長い二日間だったね」


「そうだな」


 私と結人は、電車に揺られながら帰宅中。

 朝の日差しが差し込み、温かい空気が流れる。


 ここ数日、悩んでばかりだったから、これだけ落ち着いていられるのはいつぶりだろうか。

 隣で結人は、頭をカクンカクンさせながら意識を保っている。


「結人、眠いの?」


「……ん、いや大丈夫だ」


「そんな風に見えないけど。昨日、いつ寝たの?」


 私は全然おぼえてないが、きっと12時くらいだったと思う。多分。


「えっと、寝れてない」


「え!? なんで!? ……あ、私がベッド占領してたから」


 そうだよ、私がベッドで寝ていたのに、結人は寝る所あったのだろうか。


「あー、いやソファで寝ようと思ったんだけど。…………隣の部屋から声が聞こえて寝れなかった」


「あー」


 そういうホテルだったもんね、あそこ。


「……私一人で寝ちゃってごめん」


「謝るな、別に問題ない」


 そういう所、意地張るなぁ。

 私は、結人の頭を抑えて私の方へと倒した。

 そして、結人の頭は私の太ももへ。


「……紬さん? これはいったい」


「私のせいで寝れなかったんだから、これでお詫び!」


 電車の中でくらい、寝てほしい。


「結人は何も考えず寝て良いから」


「この状態は逆に緊張して寝れそうにないんだけど」


「あ、じゃあやめる?」


「いえお願いします」


 私は、ゆっくり結人の頭を撫でる。


「なんか、大きい赤ちゃんみたい」


「やっぱ恥ずかしいからやめ」


「ほら動かない!」


 頭を上げようとする結人を無理矢理押さえつける。

 ……私だって、恥ずかしいし。


 そのまま、私は結人に膝枕をしながら結人へある事を伝える。


「……結人、起きてる?」


「…………」


「まあ起きてても起きてなくてもいいけど。聞いてほしいな」


「…………」


「結人の気持ちにすぐに答えてあげられなくてごめんね。私も、まだ自分の気持ちに整理がついてないの」


「…………」


「でも、これだけは分かるよ。私は、結人が好き。異性としての好きなのか、家族として好きなのか、友達として好きなのか、それはまだ分からないけど」


「…………」


「だから、これからゆっくり自分の気持ちを見つめ直そうと思うんだ。これからの、結人との関わりで、私はもう一度結人を見るよ。今の結人を、しっかりと」

 

 恥ずかしい膝枕をしながらだと、スラスラと気持ちが口から出てくる。


「だから、もう。幼馴染に執着するのはやめようと思う。この言葉は確かに便利だったけど、気持ちや真実を隠せてしまった。過去を見て、ずっと引きずっていた」


 幼馴染である事に固執しては、今までと変わらない。

 私は、結人の気持ちに向き合うと決めた。


「私の、本当の気持ちが分かるまで、結人とは幼馴染関係を解消するよ。幼馴染としてじゃなく、一人の人として。異性として、ちゃんと見ていくから」


 それが、今の私の気持ち。

 私たち以外いない電車の車両。響く電車の音の中、結人は


「……そうか。待ってるよ」


 と答えた。

 そして、結人は目を閉じて眠りについた。

 春が終わる。

 そして夏が来る。

 受験生の夏は忙しい。

 でも、遊べる所はあそぼうと思う。

 結人との、青春はこれからだ。


    ◇


 電車を降りると、私は結人と別れる。

 結人は疲れていたのでそのまま家へと直行、私はお母さんから送られてきた買い物メモに合わせて食べ物を買って帰らないといけない。


 何もなかったけども、一応ホテル帰りの男女なのに、買い出し頼むとかどういうメンタルですか?


 私は近所のスーパーへ足を運び、メモに書かれた材料を次々に放り込んでいく。

 ……その時だった。


「……もしかして、紬ちゃんかい?」


「へ?」


 後ろから、名前を呼ばれる。

 私は振り返ると、そこにはスーツを着た男性が立っていた。

 私は、その人に見覚えがあった。


「……あ! もしかして、結人の……」


「そうだよ! 良かった〜、忘れられてなくて。結人の父です。うちの息子とは、仲良くなってるかな?」


「あ、はい仲良くさせてもらってます……なんで、こんな所に」


 結人のお父さんは、海外に転勤になってアメリカにいるはず……。


「会いに来たんだ。僕の、自慢の息子にね」


    ◇


 俺ーー結人は、家へと着くと、玄関の前にリリアナが立っていた。


「ユート!!」


 リリアナは焦った様子で俺に駆け寄る。

 やっば。


「あー、いや……えっと。あの紬と遊びに行ったらたまたま電車がなくなってしまってですね? だから帰れなくて仕方なく泊まってき」


「そんなの知ってますよ!! そんな事どうでも良いです!」


「そんな事って……」


 俺にとってはかなり大事なことだったんだが。


「来るんですよ」


「うん? なにが?」


「アナタのファザーが、ここに!」


「ファザー……? え、親父が? なんで? というか何でそれをリリアナが」


「ワタシは、アナタのファザーに言われてここに来たんです」


 俺の親父に? 何で?

 確かに、親父はアメリカへ行ったし、リリアナの父とも取引先で仲良くしていたが……。

 いまいち、線につながらない。

 俺がハテナを浮かべていると、リリアナは言いづらそうに口を開く。


「……ワタシとユートは。ケッコンするんです」


「は? ……いやそれは小さい頃の約束で」


「そうじゃないです。親同士の話し合いにより、ワタシとユートはケッコンするんです」


「………………は?」


 こうして、波乱が始まる。

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