二章「これって友達ですか?」

誕生日プレゼントはいつまでですか?

 小学6年生、冬。すっかり外は白くなり、暖かいコタツでぬくぬくしながら、みかんを食べ、猫と戯れたい欲求に駆られる時期だ。学校では卒業に向けて歌の練習とかしていて、なんとも忙しい時期に差し掛かっていた。これは俗に言うブラック企業。いや、ブラック学校ではないだろうか。小学生の俺にも休みを与えて下さい。

 そして、今日2月2日は紬の誕生日だ。ちなみに俺は4月4日。新学期と共に年齢が上がるので、誕生日おめでとうは忘れられがちなのだ。それに、俺の方が紬より年上なはずだ。つまり、紬に敬われるはずだ。この機会に、普段の扱いに異議を申し立てたい。

 俺は、紬の家にお邪魔し、誕生日パーティーに参加していた。普段、良く遊びに来ていて、家のリビングより見慣れたその風景は、様々な飾りによって誕生日仕様に変わっていた。いつもの日常感も消え、特別な空間に早変わりしていた。


「あ、結人。どう? 去年より派手でしょ!」


 俺がぼーっと立っていると後ろから聞き慣れた声が聞こえて来る。


「毎年、誕生日は豪華に飾るよね」


「だって、あたしが主役だもん!」


 紬がとても可愛らしいワンピースを着て、元気よくやってくる。肩には、「本日の主役」と書かれたタスキを掛けて、頭には小さな王冠のついたカチューシャを付けている。俺はクスッと笑ってしまった。


「なに笑ってるのよ」


「いやぁ。この年で恥ずかしくないの? もう中学生になるんだよ?」


「……今日くらいいいの!」


 紬は顔を真っ赤にして睨んでくる。まあ、今日くらい好きにしてていいか。誕生日だし。

 すると、彼女はこちらをチラチラ見て、何かを察しろと言わんばかりに無言で訴えかけてくる。


「どうしたんだ。トイレか?」


「違うし!」


「じゃあなんだ。おもらし……グハァ!」


 紬の渾身のパンチが俺の腹にクリーンヒットした。しかも、俺が少し構えたから良いものの、こいつ完全に股を狙いに来てたぞ殺す気か???


「空気を読めない子は嫌いです」


「悪かったよ」


「許さない」


「え。じゃあ、俺は帰った方がいい?」


「誕生日プレゼントくれるまで帰るの禁止」


「あ、それが目的だったのか」


「察しが悪い。鈍感、にぶちん、人でなし」


「最後の一つはただの悪口だろ!」


「結人には、それくらいがお似合いよ」


「ひでえ……」


「あたし、今日は主役だから。女王様の命令は?」


「絶対!」


「よく出来ました」


「やべえ納得いかねえ」


 紬は楽しそうに笑う。俺もそれに釣られて笑ってしまう。結局、こいつには逆らえない。それに、今日はこいつの誕生日だしな。


「まあ、誕生日プレゼントは後でのお楽しみな」


「わかった。……楽しみにしてるね!」


 紬は、主役らしい笑顔で微笑んだ。


ーー18:00


「紬ちゃん、お誕生日おめでとう!」


「ありがとう!」


 誕生日会が始まった。といっても、参加者は俺と紬と、紬のお母さんだけだ。俺は、紬の熱い要望(プレゼント欲しさ)によって招待された。紬のお父さんは、数年前に亡くなっており、二人だけだと寂しいからありがとうと紬のお母さんからは言われた。


「お母さん! これ美味しい!」


「ふふふ、ありがとう。紬、慌てて食べないの」


「美味しいんだもん!」


 紬と紬のお母さんのやり取りは、見ていてほんわかした気持ちにさせる。


「結人くんも、沢山食べてね」


「あ、はい! ありがとうございます」


「結人。昔は、お母さんのこと、みゆきちゃんって呼んでいたのに、紬のお母さんって呼んでるよね」


「結人くん。ずっと、みゆきちゃんって呼んでくれて良いのよ?」


「いや……その」


 小さい頃から知っているからか、親同士も仲が良く、かつ名前呼びをしていたが、最近は何ともムズムズするのでやめてしまった。


「あ、そうだ紬。はい、お誕生日プレゼントよ」


「え! なになに?」


 紬のお母さんは、綺麗に包装された箱を持ってきて紬に渡す。


「わー! お洋服だ!」


「前から欲しいって言ってたでしょ」


「うん! ありがとう!」


 紬は、箱から出てきた洋服を見て目をキラキラさせている。そして、俺の方をチラチラと確認してくる。


「うん? ああ、洋服似合うと思うぞ」



「……それはありがと」


 紬はジッと見てくる。なんだよ。言いたい事あるなら言えよ。


「結人は?」


「はい?」


 紬は両手を俺に出して、ジッと見つめてくる。


「あー、誕生日プレゼントくれってことね」


「察し悪い。鈍感、にぶちん、人でなし」


「だから最後のは悪口だろ! そしてこの流れさっきもやったな!」


 俺はこの貪欲さに半ば諦めながらも、カバンから小さな箱を取り出して渡す。


「ほら」


「ありがとう! 開けて良い?」


「どうぞ」


 紬はワクワクしながら箱を開ける。


「これって……ネックレス?」


「そうだよ」


 箱の中には、星の形のネックレスが入っていた。


「ふーん」


「え、反応薄くね?」


 せっかく選んだのに……紬は俺に背を向けてしまっているため表情を確認することができない。


「だって、学校につけて行かないし」


「あ。」


「こういうのが好みなんだ……まあ、ハート型を選ばなかっただけマシよ」


「あ、そう」


 紬の酷評に、俺は顔を見ることが出来なかった。なんというか、悲しい。


「こら。紬。結人くんが折角、お年玉とお小遣いを貯めて買ってくれたんだから」


「なんでそれを!?」


「結人くんのお父さんから聞いたわよ〜、色々プレゼント考えてくれてたんでしょ?」


「えっと、あ……」


 こんな場面でそれを暴露されるのはたまったもんじゃない。


「結人」


「はい」


「これは、学校以外で、出かける時に付けるね」


 紬は、いつの間にかネックレスを付けていた。そして、俺にニコッと笑いかける。その紬の頬は少し赤くなっている、気がした。


「ありがとう! 結人。大切にするね!」


 感謝の言葉が聞けただけで、俺の心はすっかり舞い上がっていた。ほんと単純だと思う。

 俺は、この日から紬の欲しいものを先に聞いて一緒に買いに行こうと決意するのだった。



ーー現在


「結人〜! 早く行きましょ〜!」


「分かってるから……! 走るな!」


 俺は、紬の誕生日プレゼントを購入しに来ていた。ここは駅前。様々なお店が立ち並び、かつ交通の中心地なので人が多くてクラクラしそうだ。したし、紬はいつにも増して元気だ。外は寒いのに。彼女の首には星型のネックレスが掛かっている。


「紬、お前そのネックレス子供っぽくないか?」


「良いのよ。あたし、物は長持ちする人だから」


「ええ……でも」


「なに? やっとセンスの悪さを自覚してくれた?」


「あーうん。なんというか、チープだな」


「まあ、その値段で買おうと思ったのが無謀だったのね。気持ちは嬉しいわ」


「もっと良いやつ買ってやるからそれやめようぜ……」


 黒歴史を見せつけられる拷問されてる気分だ。


「良いやつは持ってるわよ。このネックレスは、結人と出かける時しか付けないもん」


 嫌がらせか。


「そんなことどうでも良いわ。早く書いに行きましょう」


「何 何が欲しいんだよ?」


「あのね! あられのDVDとか、グッズよ」


 霰とは、国民的アイドルグループの名前だ。紬は大ファンで、CDに関しては全て持っている。俺もよく聞かされるので、好きではある。


「よし、予算は5000円だからな」


「分かってるわよ、ゴー!」


 毎年、誕生日プレゼントを買っている。俺は、一体何年後まであげることになるのだろうか。早く、良い相手見つけてその人に買ってもらえ。


「あれ? 紬ちゃんと結人君?」


 後ろから、声が聞こえてくる。


「あれ。奈緒ちゃんじゃない!」


 そこには、紬から奈緒ちゃんと呼ばれた、俺たちのクラスメイト秋元さんがいた。


「あ。休日に二人で何やってるんですか? ……あ、お出かけくらい誰でも行きますよねすみません。あ、お邪魔でしたよねすぐドロンします……」


「そんなことないわよ! 奈緒ちゃんも買い物?」


「はい……あられのCDを買おうかなって」


「え! 偶然ね! あたし達もなの。そうだ、一緒に行かない?」


「え、良いんですか? でも邪魔に……」


「大丈夫よ。邪魔なんかじゃないわ。大歓迎よ」


「まあ、俺はどちらでも良いけど」


 秋元さんは、俺と紬を交互に見て、


「じゃあ、お願いします……」


 秋元さんは微笑んだ。紬はすぐさま秋元さんに、霰に関しての話をし始める。話せる相手がいて良かったな。

 こうして、俺たちはお店まで歩き出した。



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